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森広忠の名古屋大家道
第三回「大家さんの税務調査②-接待交際費―」

前回の続きで
10年程前の名古屋市内で3棟の共同住宅をお持ちの60代の大家さんの税務調査。
今回は聞かれることの多い、税務調査での「接待交際費」を主題にかかせていただきます。

税務調査官はベテランの調査官でした。
顔がいかつい方で、税務職員というより“取り立て屋!”みたいな印象を個人的に受けました。

接待交際費について、調査官の方は独自の見解を持っておみえだったようで
「大家に接待交際などない!」
と、一喝された記憶があります。

確かに、調査を受けた方の提出した領収書は接待交際費として売上との関連性が薄く、証明できる資料も用意できなかった。

調査を受けた方も、それでしぶしぶ納得し、経費の計上を除外しました。

ただ、今となっては
「大家に接待交際などない!」
というのは、調査官の個人的な見解に過ぎず、法律的に考えれば怪しいと反論できます。

大家さんの経費は、所得税法37条第1項で「その年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、不動産所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他、不動産所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする。」とされています(一部省略あり)。

この法律文をわけて説明すると。

①不動産所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額
②その年における販売費、一般管理費その他、不動産所得を生ずべき業務について生じた費用の額

の2つにわけられます。

①の売上原価というのは、簡単に説明すると商品を売った時の仕入れた値段をいいます。
大家さんは、商品を直接仕入れて売ったりしないので、大家さんには関係ない経費になります。
②のその年の販売費、一般管理費その他、不動産所得を生ずべき業務について生じた費用の額というのが、大家さんに関係する経費です。

ですので、わたくしは経費を大家さんに説明するときは
「売上(家賃収入)をあげるためにかかった費用が経費ですよ。」
と、簡単に説明させてもらっています。

さて、「売上を上げるためにかかった費用」に「接待交際費」は含まれないのでしょうか?

不動産仲介店の方とお話したことがあります。
大家さんから入居のお礼に「商品券」をもらえる場合ともらえない場合
「やる気になるのはどっちですか?」

その方は「入居募集のやる気が全然違う」とお話ししてくれました。

 

仲介店の方は、大変忙しいです。
部屋探しの方が来店されても、紹介できるのは1から3戸。せいぜい多くて5戸だとききます。その中で上位にくる部屋とそうでない部屋、わかれてくるのはちょっとした気づかいとお礼です。
その時に、例えば「商品券」というお礼「接待交際費」が効いてくるのです。

上位にきて空室が埋まれば売上が発生します。
家賃収入という売上を多く上げるためにかかった費用が経費ならば、「商品券」というお礼、「接待交際費」は確実に存在します。

また、当事務所には賃貸住宅の修理をおこなう業者さんのお客様もあるのですが
修理は、時期が重なることも多いです。

たとえばハウスクリーニングなど退去が多い2・3月は大忙しで、4月末まで予定がいっぱいという例があります。

また、今年は多かった台風・地震などの保険金請求。
見積書などを頼んでも立て込んでいて業者の方が来てくれないということがあります。

こういったときに優先して仕事をしてもらえるのが、
お付き合いや日ごろから利益をうませてくれるお客様です。

「○○さん(大家さんのお名前)の仕事は最優先でやってあげたい。」
という話を業者さんから直接きいたこともあります。

優先的に修理・見積もりをしてもらえれば、次の入居が早く決まる可能性があります。
空室期間を可能な限り短くすることもできます。

こういった関係性が作れるのが「接待交際費」になると思います。

 

ただ、「接待交際費」は、証明しにくいというのもよくお話ででてきます。

支払った領収書・レシートに一言「○○仲介店へ」とか「○○工務店と(飲食)」とか補則を記入して証明資料としていただきたいです。

税務調査における挙証責任(ある事実について証拠をあげ、証明をすべき責任)は
税務署側にあります。

こちらも公私をわけて、真実をしっかり資料で証明し、税務調査に対応しましょう。

(次回に続く)

まとめ

・大家さんの経費は売上(家賃収入)をあげるためにかかった費用
・仲介店・業者さんに差し上げる商品券・手土産代、
 関係性を作るために一緒に食べる飲食代は「接待交際費」になる
・領収書などに補則を記入し、証明資料としよう

ABOUT ME
森広忠
名古屋市出身、名古屋経済大学大学院卒業後、2008(平成20)年シンプルタックス森会計【森広忠税理士事務所】設立。税理士として、個人事業・中小企業の顧問を行う。実家が古くからある地主で、不動産賃貸業をアパート、貸倉庫、貸地、貸家、月極駐車場で営んだ経験あり。 顧問先に不動産賃貸業者が多く、不動産・不動産管理会社を利用した所得税・法人税・相続税の節税相談の経験が多くある。
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