賃料不払いによる解除について ②
こんにちは。弁護士の関です。
今回のコラムでは、数回にわたり『賃料不払いによる解除について』の判例をお送りいたします。
賃料不払いによる解除についての判例 その2
●信頼関係不破壊の判例
前回、裁判所では、賃借人に賃料不払いがあったとしても、信頼関係が破壊されていない場合には、賃貸借契約の解除は認められないと判断することをご紹介しました。
それは、次のような最高裁判決(昭和39年7月28日)が前提になっています。
この事案は、賃貸人が賃借人に対し、昭和34年1月分から同年8月分まで月額1200円合計9600円の賃料不払いがあるとして、催告及び停止条件付解除(いついつまでに払わなければ解除すると、条件を付した解除のこと)をしたものです。
判示によれば、
・催告当時、1月分から4月分までの賃料合計4800円はすでに適法な弁済供託がなされていて、延滞賃料は5月分から8月分までのみであったこと、
・本件家屋の地代家賃統制令による賃料額は月額750円程度であり、従って延滞賃料額は合計3000円程度にすぎなかったこと、
・賃借人は昭和16年3月に賃貸人の先代から本件家屋を賃借して以来居住しているもので、催告に至るまで前記延滞額を除いて賃料延滞の事実がなかったこと、
・昭和25年の台風で本件家屋が破損した際、賃借人の修繕要求にもかかわらず賃貸人側で修繕をしなかったので、昭和29年頃2万9000円を支出して屋根のふきかえをしたが、右修繕費について本訴が提起されるまで償還を求めなかったこと、などの事情を認定した上で、
「右事実関係に照らせば、同被上告人(注:賃借人のこと)にはいまだ本件賃貸借の基調である相互の信頼関係を破壊するに至る程度の不誠意があると断定することはできないとして、上告人(注:賃貸人のこと)の本件解除権の行使を信義則に反し許されないと判断しているのであつて、右判断は正当として是認するに足りる。」
と結論付けました。
●信頼関係不破壊の判断要素
この最高裁判決から、信頼関係が破壊されていないといえる特段の事情があれば解除が制限されるという結論自体は理解できると思いますが、難しいのは、どのような場合であれば、信頼関係が破壊されていないとされる特段の事情に当たるかどうかの判断(あてはめ)です。
賃料不払いが何か月分あるか、というのは重要な判断要素になりますが、裁判例をみると、例えば、同じ3か月分の未払いでも、解除が認められるものもあれば、解除が認められないものもあります。
つまり、単純に賃料不払いが何か月分かだけでは決まらないということです。
ほかには、契約締結時の事情、不払いに至った経緯、過去の賃料支払い状況、
催告後・解除後の賃借人の対応等も考慮され、総合的な判断がなされています。