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【第340回】弁護士 関 義之が斬る!     「令和3年改正民法・改正不動産登記法等(相続に影響する部分)について」 その3

●「令和3年改正民法・改正不動産登記法等(相続に影響する部分)について」

こんにちは。弁護士の関です。

今月は「令和3年改正民法・改正不動産登記法等(相続に影響する部分)について」
を書いていきます。

●相続制度(遺産分割)の見直し

今回の民法の改正では、相隣関係や共有など、
物権法の分野で重要な見直しがなされていますが、
相続法の分野についても重要な見直しがなされています。
今回は、このうち、遺産分割の見直しについて説明し、
次回は、財産管理制度の中の相続に関連する見直しについて説明します。
その他の民法の改正事項については、
前掲の法務省のウエブサイトをご覧ください。

●共有に関する規定を適用するときの共有持分

現行の民法では、相続人が数人あるときは、
相続財産は、その共有に属することとされ(遺産共有、民法898条)、
民法249条以下の物権法の共有に関する規定が適用になります。
もっとも、この共有に関する規定を適用するときの
各相続人の共有持分の割合について、法定相続分(指定相続分)と
具体的相続分のいずれが採用されるのかについては争いがありました。
法定相続分とは、民法で予め定められている画一的な割合をいい
(900条、901条)、遺言により被相続人等が指定した割合を
指定相続分(902条)といいます。
この法定相続分・指定相続分は
、共同相続人の中に特別受益(903条)や寄与分(904条の2)が
ある者がいるときはその割合が修正されますが、
その修正して算出する割合を具体的相続分といいます。
特別受益とは、遺贈のほか婚姻や養子縁組のため、
または生計の資本として、被相続人から共同相続人に贈与された財貨をいい、
寄与分とは、共同相続人の中に被相続人の事業に関する労務の提供、
財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により
被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者がいた場合に、
この者に与えられる相続財産への持分をいいます。
今回の改正では、相続財産について共有に関する規定を
適用するときの共有持分は、具体的相続分ではなく、
法定相続分(相続分の指定がある場合には指定相続分)を
基準とすることが明記されました(改正民法898条2項)。
この改正は、令和5年4月1日に施行されます。

●具体的相続分による遺産分割の時的限界

前述のように、相続人が数人あるときは、
相続財産は、法定相続分又は指定相続分に応じた共有持分により
共有状態となりますが、その後、遺産分割により遺産共有が解消され
個別の財産の各共同相続人への帰属が確定します。
この遺産分割は、具体的相続分の割合により行うこととされています。
従って、遺産分割では、共同相続人の中に特別受益や寄与分を主張する者がいて、
この主張が認められれば、法定相続分や指定相続分が修正されることになります。

現行の民法では、具体的相続分による遺産分割を
求めることに特段の期間制限はありませんでしたが、
今回の改正では、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産分割は、
具体的相続分ではなく法定相続分又は指定相続分によるとされ、
特別受益や寄与分の主張に期間制限が設けられました(改正民法904条の3)。
ただし、次の2つの例外があります。
1.相続開始の時から10年を経過する前に、
相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
2.相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6か月以内の間に、
遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が
相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6か月を経過する前に、
当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
なお、民法に定めはありませんが、相続開始の時から10年を経過した「後」に、
相続人全員で具体的相続分に応じて遺産分割をする旨の
合意をすることは可能と考えられています。
この改正は、令和5年4月1日に施行されますが、
施行日前に相続が開始された遺産分割についても適用になるので注意が必要です。
ただし、施行日前に相続が開始された場合には、
相続開始の時から10年を経過する時と、
施行の時から5年を経過する時のいずれか遅い時が、
具体的相続分を求められる期限となります。
つまり、施行日から少なくとも5年の猶予期間が設けられています(改正法附則3条)。

●10年の時的限界を設けたことに関連する改正

具体的相続分による遺産分割を求められる期間を相続開始の時から
10年としたことに関連して、次のような改正もなされました。

まず、遺産分割の審判・調停の申立ては、
相続開始の時から10年を経過した後にあっては、
相手方の同意を得なければ取り下げることができないとされました
(改正家事事件手続法199条2項、273条2項)。
この改正は、令和5年4月1日に施行されますが、
施行日前に相続が開始された遺産分割についても適用になるので注意が必要です。
ただし、施行日前に相続が開始された場合には、
相続開始の時から10年を経過する時と、
施行の時から5年を経過する時のいずれか遅い時が、
同意なく取下げができる期限となります。
つまり、施行日から少なくとも5年の猶予期間が設けられています
(改正法附則7条1項)。

次に、遺産の共有と通常の共有が併存している相続財産がある場合に、
現行法では、遺産分割(家庭裁判所)と共有物分割(地方裁判所、簡易裁判所)の
別個の手続をとらなければならないとされていますが、
今回の改正では、相続開始の時から10年を経過した場合には、
遺産共有持分についての遺産分割の請求があり、
かつ、相続人が共有物分割の手続による分割に異議の申出をしたときでない限り、
遺産共有持分の解消も含めて、共有物分割の手続で
一元的に共有関係を解消することが可能となりました(改正民法258条の2第2項)。
この改正は、令和5年4月1日に施行されます。

また、今回の改正では、新しい共有制度として、
裁判所の手続で、所在等不明共有者(他の共有者を知ることができず、
又はその所在を知ることができない共有者)の
不動産の共有持分を他の共有者が相当額の金銭を供託して「取得」
(改正民法262条の2)したり、第三者に「譲渡」
(改正民法262条の3)することができるようになりました。
この制度は、遺産共有の場合には、
相続開始の時から10年を経過していることが要件とされました
(改正民法262条の2第3項、262条の3第2項)。
この改正は、令和5年4月1日に施行されます。

ABOUT ME
関 義之
「関&パートナーズ法律事務所 代表弁護士」 平成10年 3月に早稲田大学法学部を卒業し、 その年の10月に司法試験に合格。 1年半の司法修習を経て、平成12年10月から弁護士登録。 平成23年10月から中小企業診断士にも登録。 法人・個人を問わず幅広く紛争に関する相談を受け、 代理人として示談交渉や訴訟等に対応するほか、 契約書の作成・チェック等、 紛争が生じる前の予防法務にも力をいれている。 不動産の賃貸・売買や、 遺言・遺産分割・遺留分など相続に関する相談を、 幅広く受けている。 特に力を入れている分野は、中小企業の事業承継支援。 セミナー経験多数。 詳しくはWebサイト参照  https://seki-partners.com/
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