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相続税を納税するならどっちがよい?不動産の物納VS不動産の売却

渡邊浩滋の賃貸言いたい放題 第216回

相続税の基礎から応用までわかりやすくQ&A方式で解説していきます。

Q物納のために不動産を保有しているオーナーがいますが、
物納を検討した方がよいのでしょうか?
それとも売却を検討した方がよいのでしょうか?

A
1.物納のデメリット
(1)物納申請の厳しいハードル
物納制度は相続税を現金の代わりに
相続財産そのもので納付する方法ですが、
決して簡単に認められるものではありません。
平成4年度には約12,000件あった申請が、
令和5年度にはわずか23件にまで減少しています。
これは平成18年度の税制改正により、
物納制度がより厳格化されたことが背景にあります。

(2)物納は延納よりも後順位
物納は「延納によっても金銭納付が困難な場合」に限り認められる制度です。
まず現金一時納付できる金額を算出し、次に延納できる金額を算出し、
それでも支払えない場合にのみ物納が認められます。
「不動産があるから物納しよう」という考え方では認められないのです。

(3)管理処分不適格財産は物納できない
以下に該当する不動産はそもそも物納ができません。
物納に充てたいのであれば、申請期限までに是正しておく必要があります。

①抵当権などの担保権が設定されている不動産
②権利の帰属について争いがある不動産
③ 境界が明らかでない土地
④隣接する不動産の所有者との争訟に
よらなければ通常の使用ができないと見込まれる不動産
⑤無道路地
⑥借地権の目的となっている土地で、その借地権を有する者が不明の場合
⑦共有不動産(全員の同意がある場合を除きます)
⑧耐用年数を経過している建物(通常の使用ができるものを除きます。)
⑨敷金の返還に係る債務その他の債務を国が負担することとなる不動産
⑩その管理又は処分を行うために要する費用の額がその収納価額と比較して過大となると見込まれる不動産
⑪公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある目的に
使用されている不動産その他社会通念上適切でないと
認められる目的に使用されている不動産
⑫引渡しに際して通常必要とされる行為がされていない不動産
⑬暴力団員等が賃借している不動産

(4)利子税の負担
物納が許可されても、相続税の納付期限から
物納許可の日までの期間について利子税がかかります。
物納手続きには時間がかかることが多いため、
利子税の額が予想以上に高額になることを想定しておく必要があります。

2.物納した方がよい場合
(1)相続税評価額が市場価格を上回る場合
借地権が設定された土地、いわゆる「底地」の場合、
相続税評価額が市場価格を上回ることがあります。

底地の相続税評価額は「更地の相続税評価額×(1-借地権割合)」で計算されますが、
実際の市場価格は更地価格の1割程度と言われています。
このような場合、物納の方が有利になります。

(2)相続税の納付期限までに売却が間に合わない場合
相続税の納付期限は原則として相続開始を知った日から10ヶ月以内です。
立地条件が悪く買い手が見つかりにくい場合など、
この期間内に不動産を売却できないケースでは、
売り急いで市場価格よりも低く売却してしまう可能性があります。
物納であれば、そのような心配はありません。

(3)売却すると譲渡税が多額に課税される場合
不動産を売却すると譲渡所得税が課税されますが、
物納の場合は譲渡所得税が課税されません。

平成27年1月1日以降の相続では、
「相続税の取得費加算の特例」が大幅に縮小されたため、
相続後の不動産売却での譲渡税負担が増加しています。
譲渡所得税が高額になると予想される場合は、
物納が有利になる可能性があります。

(4)自宅の底地のみを物納できる
物納できる不動産がなく、
自宅の不動産しか所有していない場合、
自宅として利用している土地の底地だけを物納することが可能です。
国に地代を支払う必要がありますが、
相続人は引き続き自宅に住み続けることができます。

3.売却した方がよい場合
(1)物納不適格財産に該当する可能性がある場合
境界が不明確な土地や権利関係が複雑な不動産など、
物納不適格財産に該当する可能性が高い不動産は、
物納が認められないため売却を検討すべきです。

(2)市場価格が相続税評価額を上回る場合
物納は相続税評価額での受け入れになります。
不動産の市場価格が相続税評価額を大きく上回る場合、
売却した方が金銭的に有利になります。
特に都心部や人気エリアの不動産では、売却が有利になる可能性が高いです。

(3)売却損が出る場合
不動産の売却で損失が出る場合、
その損失を他の不動産の譲渡利益と損益通算できる可能性があります。
一方、物納の場合は損益通算ができません。
複数の不動産を相続し、
一部に含み損がある場合は、
売却を選択した方が税務上有利になることがあります。

4.まとめ
不動産の物納と売却のどちらを選択するかは、
不動産の種類や立地、市場価格と相続税評価額の差、
譲渡所得税の負担など、個々の状況によって判断が分かれます。

物納するにしても売却するにしても、
相続前から準備をしておくことが重要ということで

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ABOUT ME
渡邊浩滋
大家さん専門税理士事務所、渡邊浩滋総合事務所代表。当サイトを運営する大家さん専門税理士ネットワーク「Knees(ニーズ)」代表。 自らも両親から引き継いだアパートを経営する大家であり、「全国の困っている大家さんを助けたい」という夢を叶えるべく日々奔走している。 全国でのセミナー出演、コラム執筆等多数。
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