渡邊浩滋の賃貸言いたい放題 第223回
相続税の基礎から応用までわかりやすくQ&A方式で解説していきます。
Q民法改正によって遺産分割協議の期限が10年になったと聞きました。
相続から10年を経過すると遺産分割ができないのでしょうか?
法定相続分で分けるしかなくなるのでしょうか?
A
1.令和5年の民法改正の経緯
令和5年(2023年)4月1日から施行された民法改正の中に、
遺産分割に関する内容が含まれています。
相続開始から長期間が経過すると、
被相続人がどの相続人にどれだけの生前贈与をしたのか、
誰が介護や家業への貢献をしたのかといった証拠や記憶が散逸してしまい、
他の相続人にとって反証が困難になるという問題がありました。
そこで、10年も経てば「もう法定相続分どおりに分けるだろう」という期待も生まれ、
法的安定性の観点からも一定期間での区切りが必要と判断されました。
次の条文が創設されました。
相続開始時から10年を経過した後にする遺産分割は、
具体的相続分ではなく、法定相続分(又は指定相続分)による(民法904の3)
2.民法改正でも「できる」こと
相続開始から10年を経過した後でも、
遺産分割協議を行うこと自体は可能です。
相続人全員が集まって話し合い、
全員の合意が得られれば、いつでも遺産分割協議は成立します。
これは改正前と変わりません。
ですから、10年経過後も法定相続分と異なる分け方を合意すれば、
その相続分で相続することになります。
3.民法改正で「できなくなる」こと
相続開始から10年を経過すると、二つの制度が使えなくなります。
(1)特別受益の持戻し
特別受益とは、被相続人から特定の相続人が生前に受けた贈与や遺贈のことです。
本来、このような生前贈与等は相続財産に持ち戻して計算し
各相続人の取得分を調整する仕組みがあります。
例えば、長女だけが父親から1000万円の住宅資金援助を受けていた場合、
この1000万円を相続財産に加算して計算し、
長女の相続分から差し引くことで相続人間の公平を図るのです。
しかし、10年を経過するとこの持戻し計算ができなくなり、
生前贈与を受けた相続人が実質的に有利になってしまう可能性があります。
(2) 寄与分の主張
寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加に特別の寄与をした相続人が、
その貢献度に応じて他の相続人より多く相続財産を取得できる制度です。
典型的な例としては、長男が家業を無給で手伝い続けて事業の発展に貢献した場合や、
長女が仕事を辞めて親の介護に専念した場合などが挙げられます。
このような特別の貢献があった相続人は、本来であれば寄与分として
相続財産から一定額を先取りできるのですが、10年経過後はこの主張ができなくなります。
(3)例外
ただし、次の場合には10年を超えても従来どおり寄与分や特別受益を主張できます。
・相続開始から10年以内に相続人が家庭裁判所に
遺産分割の調停や審判を申し立てていた場合
・10年の期限まで残り6か月以内になって、
遺産分割を請求できないやむを得ない事由(※)があった場合。
(※)例えば、相続人全員で「5年間は遺産分割をしない」
という合意をしていた場合など
4.実務上の注意点
制限されるのは、「特別受益」や「寄与分」の一方的な主張です。
相続開始から10年経過後であっても、相続人全員が同意する場合は、
特別受益や寄与分を反映した遺産分割協議は有効です。
なお、実務上は、経過措置についても理解しておく必要があります。
改正法は施行日(2023年4月1日)以降に行われる遺産分割に適用されますが、
施行日前に開始した相続にも原則として適用されます。
ただし、既に長期間経過している相続について
急に権利主張を封じるのは不公平なため、
特別な猶予期間が設けられています。
具体的には、特別受益や寄与分の主張が制限される時期は、
「相続開始から10年経過時」
か「施行日から5年経過時(2028年4月1日)」
のいずれか遅い方となります。
例えば、2015年に相続が開始していた場合、本来なら2025年で10年経過となりますが、
経過措置により2028年4月1日まで特別受益や寄与分の主張が可能です。
一方、2020年に相続が開始した場合は、2030年が10年経過時となり、
2028年4月1日よりも遅いため、2030年まで主張可能ということになります。
5.まとめ
令和5年の民法改正は、「遺産分割協議に10年の期限を設けた」というよりも、
正確には「相続開始から10年を経過すると、遺産分割の方法に制限が加わる」
という内容です。
「遺産分割は急がなくても大丈夫」という従来の認識のまま放置していると、
知らないうちに10年期限を迎えてしまい、
特別受益や寄与分を主張できなくなってトラブルになる
可能性がありますのでご注意ください。
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