賃料不払いによる解除について ④
こんにちは。弁護士の関です。
今回のコラムでは、数回にわたり『賃料不払いによる解除について』の判例をお送りいたします。
賃料不払いによる解除についての判例 その4
●賃料不払い3か月分で解除を認めなかった事例
最後は、解除をした時点で賃料不払いが3か月分であったケースで、解除を認めなかった裁判例をご紹介します。
平成14年11月28日の東京地裁の裁判例です。
原告が賃貸人、被告2名が賃借人です。
もともとは被告の母親Aが昭和36年から借りていた物件で、事業用兼住居として使用していました。
その後、Aが改築を重ねてきましたが、母親が亡くなり事業を引き継いだBが改築したことを契機に、原告がB他に対し建物明渡し訴訟を提起しました。
この訴訟では、平成6年3月31日、賃料月額を35万円とし、賃料の支払を2回分以上怠ったときは原告はBらに対し何らの催告をすることなく直ちに本件賃貸借契約を解除することができる、などの特約を付けた訴訟上の和解をしました。
その後、Bが死亡し、被告らが賃借人の地位を相続しましたが、被告らは、平成12年4月以降の賃料を怠り始め、平成13年3月5日の時点で、賃料不払いは3か月分に達しました。
そこで、原告が被告らに対し、平成13年3月16日到達の内容証明郵便により、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたという事案です。
裁判所は次のような判示をして解除を認めませんでした。
・平成13年3月5日を経過した時点で、裁判上の和解における無催告解除の要件(賃料の支払を2回分以上怠ったとき)が、少なくとも形式的には充足されている。
確かに、契約は遵守されなければならず、特に、本件のように、過去において紛争が生じ、訴訟となった後に、訴訟上の和解として合意した内容については、特に誠意をもって遵守されるべきであるから、条項どおりに無催告解除の有効性を主張する原告の心情にはもっともな面がある。
・しかしながら、建物賃貸借契約が、賃借人にとって、その生活・生計の維持の基盤となる重要な継続的法律関係であることに鑑み、その解除については、契約関係の継続を不可能とするような客観的かつ実質的な信頼関係破壊が要件とされるのであって、このことは、訴訟上の和解に基づく解除条項の解釈においても同様である。
・確かに、原告が本件賃貸借契約の解除を通告した段階では、形式的には3か月分の賃料の滞納が生じているけれども、その間、原告から被告らに対して滞納賃料の支払を督促したことがなかったこと、原告代理人からの解除通知が被告らに到達した5日後に、原告が未払額であると(勘違いして)指摘した賃料5か月分相当額である175万円を一括して原告代理人の指定する口座に振り込んで支払っていること、それ以降、約定どおりの賃料の支払を継続していることが認められ、かっ、本件審理の過程において、被告らは、原告に対し、従前は差し入れていなかった敷金を新たに差し入れること、新たな保証人を付することなどを和解の条件として提示していることが当裁判所に顕著である。
・これらの事情を総合考慮すると、被告らの前記の賃料滞納が、客観的かつ実質的な信頼関係の破壊を招来したと認めることはできないというべきである。
●この事例からいえること
賃料不払いが3か月分の場合、解除を選択するか、督促をしつつ、もう1か月待つかというような判断で悩むこともあろうかと思います。
この事例では、従前、訴訟上の和解(裁判の過程で、裁判所で和解をすること)で、「賃料の支払を2回分以上怠ったときは、何らの催告をすることなく直ちに本件賃貸借契約を解除することができる」という特約を結んでいたため、その特約を重く見て、解除に踏み切ったものと推測されます。
しかし、それでも、裁判所は、他の事情を考慮し、信頼関係の破壊を認めませんでした。
今回考慮された事情は、解除後に直ぐに全額払っていること(しかも、本来3か月分の賃料不払いだったにもかかわらず、賃貸人から5か月分の不払があると指摘されたことから5か月分を払っていること)、その後賃料の支払いを継続し、また、裁判の中で、敷金を入れたり保証人を付けることを和解の条件として提示しているということでした。
このように、信頼関係の破壊の有無については、解除「後」の事情も考慮されることがあることに注意が必要です。
なお、この事例では、3か月分の不払が起こっている間、支払を督促したことがなかったということも一事情として指摘されています。
やはり賃料の不払いに対してはこまめに支払いを催促することが重要といえます。