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【第九十四回】弁護士 関 義之が斬る!     「弁護士が語る 相続法改正について」その3

●遺留分侵害額の計算

弁護士の関です。こんにちは。

前回、遺留分制度とは、被相続人が、遺留分を侵害するような遺言や生前贈与をした   場合に、遺留分権利者がその権利を回復できる制度です、という説明をしました。
そして、今回の相続法の改正により、この遺留分の権利の回復を求める
方法として、遺留分減殺請求権から遺留分侵害額請求権という
金銭請求権に変わったというお話をしました。

前回、ごく簡単な例を説明しましたが、実は遺留分制度はかなり複雑です。
何が複雑かというと、遺留分を侵害しているかの計算過程が複雑なのです。

遺留分侵害額(つまり最低限の取り分に不足する額)の計算過程は以下のとおりです。

①まず、遺留分を算定するための財産の価額を求めます。

これは、
「被相続人が相続開始時に有した財産の価額」+「贈与した財産の価額」        -「相続財務の全額」という計算で求めます。

②次に、個々の遺留分の額を求めます。

これは、「①」×「個別的遺留分の割合」という計算で求めます。

これが、個々の遺留分権利者の最低限の取り分です。

③最後に、遺留分侵害額を求めます。

これは、「②」-「遺留分権利者が受けた遺贈又は特別受益の額」-「遺留分権利者が相続によって取得すべき財産の額」+「遺留権利者が承継する相続債務の額」

という計算で求めます。
例えば、前回と同じ4人家族(父、母、長男、次男)で、被相続人の父の遺産が自宅の土地建物(相続開始時の時価6000万円)のみであり、被相続人が、この土地建物を次男に すべて相続させるという遺言を残した例で、前回、長男の遺留分侵害額750万円の計算を
どのように算出したかを解説すると、

①遺留分を算定するための財産の価額

「被相続人が相続開始時に有した財産の価額」
である土地・建物の合計6000万円のみとなります。

②長男の遺留分の額

①6000万円×8分の1=750万円となります。

③長男の遺留分侵害額

長男は、生前にも相続開始時にも何ももらっておらず、
また相続債務も承継していませんので、②750万円から控除したり加えるものが    ありません。
従って、遺留分侵害額は750万円全額という計算になりました。

 

●②遺留分を算定するための財産の価額に含める相続人に対する贈与の限定

遺留分侵害額の計算で、よくもめるのは、
①の計算で加える「贈与した財産の価額」です。
実は、被相続人がしたすべての生前贈与が計算に加わるわけではなく、
一定の贈与のみが加わります。

相続法が改正される前は、相続人に対する贈与と相続人以外の第三者に対する贈与で扱いが異なり、相続人以外の第三者に対するものは原則として相続開始前の1年間に限って   いましたが、相続人に対する贈与(特別受益)は時期を問わず全て加えるものと     されていました。

その結果、何十年も前の贈与まで遡って争いになることもありました。

これが、今回の相続法の改正により、相続人に対する贈与(特別受益)
は原則として相続開始前10年間に限って計算に加えるものとなりました
(相続人以外の第三者に対するものについては変わりがありません)。

例えば、先ほどの例で、被相続人が長男に1000万円の生前贈与をしていた場合、   相続法改正前は、贈与の時期を問わず、
①の計算で、6000万円に1000万円を加えることに
なっていましたが、改正後は、贈与が10年より前にしたものであれば、
1000万円は加えないことになりました。

ただし、③の計算で控除する特別受益については10年の限界がありませんので注意が  必要です。

改正法によって、相続人に対する生前贈与があるかないかという
争いが少し軽減されることになりましたが、それでも計算過程が複雑なことには     変わりありません。

ABOUT ME
関 義之
「関&パートナーズ法律事務所 代表弁護士」 平成10年 3月に早稲田大学法学部を卒業し、 その年の10月に司法試験に合格。 1年半の司法修習を経て、平成12年10月から弁護士登録。 平成23年10月から中小企業診断士にも登録。 法人・個人を問わず幅広く紛争に関する相談を受け、 代理人として示談交渉や訴訟等に対応するほか、 契約書の作成・チェック等、 紛争が生じる前の予防法務にも力をいれている。 不動産の賃貸・売買や、 遺言・遺産分割・遺留分など相続に関する相談を、 幅広く受けている。 特に力を入れている分野は、中小企業の事業承継支援。 セミナー経験多数。 詳しくはWebサイト参照  https://seki-partners.com/
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