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専門家が斬る!真剣賃貸しゃべり場
【第250回】弁護士 関 義之が斬る!     「弁護士が語る コロナ禍における賃借人対応」 その3

●賃借人から賃料の減免・                                                                  支払猶予を求められた場合の対応

こんにちは。弁護士の関です。

既に読者である大家さんの中には、賃借人からの賃料の減免、
支払猶予の交渉を求められた方も多くいらっしゃると思います。
どのように対応しましたでしょうか。
まずは、前回ご説明したように、法律上の根拠があるか否かを検討します。
その判断はなかなか難しいので、微妙な場合には、弁護士に相談するとよいでしょう。

今回は、法律上の根拠がなく、経営難や収入減などの理由で賃料の減免、
支払猶予を求められた場合の対応方法について整理します。

●まずは事情の確認から

株式会社オーナーズ・スタイルが、2020年5月14日~同月24日に調査した
「大家さんに聞いた!コロナの影響・やったこと・不安なこと」アンケート結果によれば、
5月後半の時点で約3割の大家さんが家賃の減免・猶予等の要請を受け、その内容は、
家賃の減額が48.5%、退去が35.1%、家賃支払いの猶予が25.4%となっています。
また、そのうち、減免や遅延の要請を受諾したと回答した大家さんは47.1%となっています。
https://owners-style.net/article/detail/27838/
当時は、事業者向けの家賃支援給付金の制度もなく、
新型コロナの蔓延や緊急事態宣言という未曾有の事態の中、
経営難や収入減などの賃借人側の事情を酌んで、
賃料の減免・支払猶予に応じてあげた大家さんが多かったようです。

今後も冬に向けて新型コロナの第3波が予想される中、
賃借人から賃料の減免・支払猶予の要求がなされる可能性があります。
この場合、まずは、減免等を求める賃借人側の事情をよく確認することから始めます。
居住用であれば、賃借人の給与等の収入が減少したことを示す資料(源泉徴収票、給与明細等)を、
事業用であれば、賃借人の売上が減少したことを示す資料(休業が分かる資料、税務申告書、試算表等)の
コピーをもらい、賃借人の説明が真実かどうかを確認してもよいでしょう。
事業用の場合、売上が減少していても、コロナ融資により資金を確保していれば、
賃料を支払うことができる可能性もあり、そのあたりも確認事項になります。

家賃支援給付金(事業用)や住居確保給付金(居住用)など、
賃料を補填する支援制度が利用できるようであれば、その利用も勧めましょう。
家賃支援給付金 https://yachin-shien.go.jp/
住居確保給付金 https://corona-support.mhlw.go.jp/jukyokakuhokyufukin/index.html
仮に、家賃支援給付金の申請を勧めても賃借人が利用できないと回答した場合には、
月の売上が前年と比較して単月ベースで50%、3か月平均で30%以上の減少までには
至っていない可能性があります。
また、既に家賃支援給付金を申請済みで、賃貸人にもお知らせが届いている場合には、
安易に減免等に応じずに、受領した家賃支援給付金から支払ってもらうように求めるべきと思います。

これまで賃料の不払いがない賃借人については、
新型コロナの影響により一時的に生活が苦しい状況にあっても、
この苦境を乗り切れば、再び、誠実な賃借人として賃借物を利用し続けてくれる可能性があるといえます。
しかし、難しいのが、これまでもたびたび賃料の不払いがあったり、様々な問題を起こしていて、
できれば退去してもらいたいと思っているような賃借人の場合です。
本当に新型コロナの影響で賃料の支払いが困難になっているのか、
単なる口実にすぎないのか、その見極めは慎重に行うべきでしょう。

事情を確認した後、賃料の減免等に応じるか否かを判断することになりますが、
応じる場合の条件は次の回に説明するとして、断る場合には、
次の3点のリスクを考慮してから決断するようにしましょう。

① 賃料の減免等に応じなかった結果、賃借人が賃料の支払いを怠った場合、
賃貸人は、賃貸借契約の解除ができるかどうか。
この点、法務省は、次のような見解を公表しています。
「賃貸借契約においては,賃借人は,契約上,賃料を支払うべき債務を負っています。
しかし,テナントに賃料の不払があっても,信頼関係が破壊されていないと認められる事情がある場合には,
オーナー(賃貸人)は賃貸借契約を解除することができないとされています(信頼関係破壊の法理)。
信頼関係が破壊されているかどうかは,賃料の不払の期間や金額,
不払に至った経緯,不払後の交渉状況など個別具体的な事情を総合的に考慮して判断されますが,
新型コロナウイルス感染症の影響という特殊な要因で売上げが減少したために賃料が払えなくなったという事情は,
信頼関係が破壊されていないという方向に作用すると考えられます。
最終的には事案ごとの判断となりますが,新型コロナウイルス感染症の影響により3か月程度の賃料不払が生じても,
不払の前後の状況等を踏まえ,信頼関係は破壊されていないと判断され,
オーナーによる契約解除(立ち退き請求)が認められないケースも多いと考えられます。」
(新型コロナウイルス感染症の影響を受けた賃貸借契約の当事者の皆様へ
~賃貸借契約についての基本的なルール~ http://www.moj.go.jp/content/001320302.pdf)
従って、個別事情によりますが、一般論としては、通常よりは、解除が認められにくいといえます。
解除ができない場合には、結果として、賃料の不払いが数か月続くことになります。

② 倒産等により、そのまま放置されるリスクはないか。
賃貸借契約が解除できたとしても、明渡し費用を確保できない賃借人に、
内装設備、什器備品、機械工具類、在庫、荷物等をそのまま放置して退去されるリスクがあります。
これらを撤去するには、賃貸人から提訴して、明渡しの強制執行をする必要があり、多額の費用がかかります。

③ 退去後に直ぐに次の入居者やテナントが見つかるか。見つかるとして、賃料相場は今より下がるか。
賃借人が退去し、明渡しがされたとしても、
直ぐに次の入居者やテナントが見つかるか分からないという空室リスクがあります。
また、見つかったとしても、賃料相場が下がっていれば、減免等に一時的に応じてでも、
現在の賃借人との契約を継続していた方がよかったということにもなりかねません。

 

ABOUT ME
関 義之
「関&パートナーズ法律事務所 代表弁護士」 平成10年 3月に早稲田大学法学部を卒業し、 その年の10月に司法試験に合格。 1年半の司法修習を経て、平成12年10月から弁護士登録。 平成23年10月から中小企業診断士にも登録。 法人・個人を問わず幅広く紛争に関する相談を受け、 代理人として示談交渉や訴訟等に対応するほか、 契約書の作成・チェック等、 紛争が生じる前の予防法務にも力をいれている。 不動産の賃貸・売買や、 遺言・遺産分割・遺留分など相続に関する相談を、 幅広く受けている。 特に力を入れている分野は、中小企業の事業承継支援。 セミナー経験多数。 詳しくはWebサイト参照  https://seki-partners.com/
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