●協議内容
こんにちは。弁護士の関です。
前回に引き続いて、法律上の根拠がなく、
経営難や収入減などの理由で賃借人から賃料の減免、支払猶予を求められた場合の対応方法について整理します。
前回ご説明したとおり、まずは、賃借人側の事情を確認することから始めます。
その後、賃借人の求めに応じてもよいと考えた場合、
次に、その条件について賃借人と協議しましょう。
賃借人から求められることは、
①賃料の免除、②賃料の月額の減額、③支払猶予に分かれます。
大家さんにとっては、③<②<①の順に、譲歩幅が大きくなり、
自身の賃貸業への影響も大きくなっていきます。従って、
まずは③→②→①の順に検討していくとよいでしょう。
また場合によっては①~③を組み合わせることもあるでしょう。
そして、①であれば何か月分免除するか、②であれば、
いくら減額するか、それを何か月分減額するか、 ③であれば何か月分をどのくらいの期間猶予するか、また猶予後にどのように返済してもらうか(一括か、分割か、分割なら返済期間をどうするか)を協議します。
前回紹介した株式会社オーナーズ・スタイルのアンケート結果によれば、
「店舗休業期間を勘案して賃料半額を2カ月間」、 「外国人留学生で日本に戻って来られない。
日本に戻ってくるまで家賃支払い猶予とした」「理美容関係だったので、
影響を考慮して希望通り3カ月間半額にしました」など、 個別事情によって判断している状況が分かります。
https://owners-style.net/article/detail/27838/
また、敷金で充当したというケースもあるようです。敷金で充当した場合には、
将来的にどのように敷金を補充してもらうかを決めておくとよいでしょう。
どの程度賃借人の要求を認めてあげるかは、
賃借人側の個別事情だけではなく、
大家さん側の個別事情(ローンの返済等)もあると思いますので、
誠実に話し合い、互いに納得できる落としどころを見つけるほかありません。
●合意書の作成
大家さんと賃借人との間で条件についてまとまった場合には、
その条件について疑義が残らないように合意書を作成するとよいでしょう。
また賃借人からは退去を前提に賃料の減免、
支払猶予その他の要求(原状回復義務の免除等)をされることも考えられます。
例えば、中途解約は3か月前予告になっているが、
1か月後に退去するため2か月分の賃料を免除して欲しいというような要求です。
退去が前提ですので安易に譲歩する必要はありませんが、
賃借人側の事情をよく確認するとともに、前回ご説明したとおり、
賃借人の要求を断った結果、そのまま賃借人が経営を継続し、
倒産等によりそのまま放置されるような最悪のケースも想定しつつ、
最善の方法を選択してください。
なお、賃借人が退去する内容の合意が成立した場合で、
かつ、実際に期限どおり賃借人が明け渡すか不安があるようなときには、
単なる合意書ではなく、万が一に備え、明渡しの強制執行が可能になるような合意をすることもご検討ください。
方法としては、民事調停、訴え提起前の和解(即決和解)のほか、
弁護士会によるADR(ただし、仲裁判断が必要)を選択することができます。
民事調停 裁判所「民事調停手続」
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_minzi/minzi_04_02_10/index.html
訴え提起前の和解(即決和解) 東京簡易裁判所「訴え提起前の和解」
https://www.courts.go.jp/tokyo-s/saiban/l3/Vcms3_00000351.html
弁護士会によるADR 日本弁護士連合会「紛争解決センター(ADR)」
https://www.nichibenren.or.jp/legal_advice/search/other/conflict.html