~変わりゆく不動産市場と大家業の未来~
前回までは、変化の激しい不動産市場において、
従来型の大家業だけでは生き残りが難しくなる時代が到来していること。
大家さん自身が地域社会や生活価値を意識した戦略を持つことが、
物件の価値を守り、長期的に安定した収益を確保する鍵となること。
収益最大化のための実践ポイントを段階を追って解説してきました。
今号では、「資産を守り、賃貸経営を円滑に継続するための対策」を
具体的に解説してまいります。
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●大家さんに必須のお金と相続の話 ~今のままで、本当に大丈夫ですか?~
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大家業における資産の大部分は不動産で構成されているため、
経営の安定性と同時に「相続時のリスク管理」が重要なテーマとなります。
空室や修繕の問題に加え、相続税や資産の分割方法を誤ると、
せっかく築き上げた資産を失う可能性もあるのです。
ここでは、大家さんが押さえるべきお金と相続のポイントを具体的に解説します。
1.不動産相続で起こりやすい問題
典型的な問題は以下の2点です。
1) 不動産の分割の難しさ
兄弟姉妹間で相続すると、現金ではなく物件そのものの分割が課題になります。
一棟アパートやマンションは簡単に分割できません。
結果として、相続人間でのトラブルや、
物件売却を余儀なくされるケースもあります。
2) 相続税の納税資金不足
不動産は資産価値が大きいため、
相続税も高額になりがちです。
しかし現金を多く持たず不動産だけを保有している場合、
納税資金の準備が不十分で、やむを得ず物件を売却することがあります。
実際に2024年度の国税庁の調査では、
相続税を支払うために不動産を売却したケースの30%が、
家族間でのトラブルや売却価格の低下につながっていることが報告されています。
大家さんにとって、相続は避けて通れない現実であることがわかります。
2.早めに取り組むべき対策
大家さんが相続で資産を守るためには、
早期の準備が重要です。特に注目されるのが
「家族信託」と「法人化」です。
【家族信託】
家族信託とは、親が元気なうちに子世代に財産管理権限を移す仕組みです。
認知症対策としても有効で、親が亡くなった後も
スムーズに不動産管理・賃貸経営を継続できます。
例えば、親が高齢で管理能力が低下した場合でも、
子が信託契約に基づき家賃収入や修繕の判断を行えるため、
物件の価値を維持できます。
【法人化】
個人所有から法人所有に切り替えることで、
所得分散や節税が可能になります。法人化することで、
所得税率より低い法人税率で利益を計算できるほか、
家族を役員にすることで所得の分散も可能です。
また、法人で所有すると相続時に現金納付の負担を分散でき、
物件の売却を避けやすくなります。
3.相続税評価を下げる工夫
不動産の相続税評価を下げる方法も多数存在します。
代表的なものを挙げると以下の通りです。
・貸家建付地評価
土地上に賃貸用建物がある場合、
土地の評価額を一定割合減額できます。
これにより相続税負担が軽減されます。
・区分登記
一棟のアパート、マンションを区分所有にすることで、
相続時の分割が容易になり、評価額の調整も可能です。
・小規模宅地等の特例
親が自宅や賃貸用地を所有している場合、
一定条件を満たせば土地評価額の50~80%が控除されます。
条件を正確に確認し、適用可能な土地を見極めることが重要です。
これらの制度を活用することで、
相続税の負担を大幅に軽減できるケースがあります。
4.実務に役立つ最新データと注意点
2025年現在、建築コストはここ数年で約30%上昇しています。
修繕や建て替えの費用は予想以上に膨らむため、
納税資金も考慮して計画的に準備する必要があります。
また、金利上昇の影響も無視できません。
変動金利で借入している場合、
利息負担が増加するリスクがあり、
相続後の収益予測に影響します。
さらに、相続対策の失敗事例として「準備不足で物件売却に追い込まれたケース」と
「早期に家族信託や法人化を行ったケース」があります。
前者は、納税資金が足りず泣く泣く物件を売却した結果、相続人間でトラブルが発生。
後者は、計画的に信託・法人化を行ったため、
円滑に賃貸経営を継続でき、家族間でもトラブルがありませんでした。
この差は、早期に専門家に相談するかどうかで決まります。
5. 相続対策の実践ポイント
1) 資産の「見える化」
不動産の評価額、ローン残高、修繕費用などを明確に把握しておく。
2) 分割のシミュレーション
相続人間での分割や評価額調整を事前に検討しておく。
3) 専門家の活用
税理士・司法書士・不動産コンサルタントに相談し、最新の税制や制度を活用する。
4) 家族信託・法人化の検討
長期的な資産保全と経営継続のために、早めの意思決定が有効。
大家さんの道しるべのメンバーは、この分野に精通しております。
迷ったらお気軽にお声がけください。



