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大家が設立した不動産所有会社に事業承継税制は適用可能か?

渡邊浩滋の賃貸言いたい放題 第227回

相続税の基礎から応用までわかりやすくQ&A方式で解説していきます。

Q不動産オーナーが設立した資産管理会社でも、
事業承継税制の適用を受けることができますか?

A
1.事業承継税制とは
事業承継税制とは、
中小企業のオーナー社長が自社株式を後継者に
相続または贈与する際に発生する相続税・贈与税の納税を、
一定の条件の下で猶予(場合によっては免除)できる制度です。

本来、事業承継時に巨額の税金を一括で支払う必要があると、
後継者が資金負担に耐えられず事業継続を断念したり、
中小企業が廃業に追い込まれたりする可能性があります。

こうした事態を避け、税負担が理由で後継者が現れず
企業が倒産して雇用が失われるという負の連鎖を防ぐ目的で、
この制度は導入されました。

会社のオーナーから事業承継を受ける際、
納税を猶予・免除することで事業継続を容易にし、
後継者が納税資金のために株式や資産を処分せずに済むようにする目的があります。
「一般措置」と「特例措置」があります。

一般措置では相続で取得した株式に
係る相続税の80%が猶予(贈与取得の場合は100%猶予)されます。
特例措置では相続・贈与ともに100%の相続税猶予となります。

特例措置を利用するには
事前に「特例承継計画」と呼ばれる事業承継計画書を作成し、
経営承継円滑化法に基づき都道府県知事の認定を受ける必要があります。

具体的には、2026年3月31日までの間に計画書を都道府県に提出し確認を受け、
そのうえで2027年12月31日までに実際の事業承継(株式の相続・贈与)を完了することが求められています。
計画書には後継者や承継時期、承継後5年間の事業計画などを記載し、
認定支援機関(税理士等)から指導・助言を受けることも必要です。

2.事業承継税制の会社の適用要件
以下のすべてを満たす必要があります。
・中小企業基本法に基づく中小企業者であること
・非上場会社であること(上場会社は対象外)
・資産管理会社に該当しないこと
・風俗関連事業を行う会社に該当しないこと
・経営承継円滑化法の認定を受けていること
・従業員が1名以上いること(役員のみの会社は対象外)
・一定の事業年度の総収入金額が0円を超えていること
・拒否権付株式(黄金株)を発行している場合は、後継者などが保有していること
・現物出資等資産の割合が70%未満であること

◯先代経営者に関する要件
・会社の代表者を務めていたこと
・贈与・相続の前に筆頭株主で、総議決権数の過半数を保有していたこと。
・贈与の場合は、贈与時に代表者を退任していること。

◯後継者(受贈者・相続人)に関する要件
・贈与・相続の直前に役員であること
(2025年改正により「3年以上役員」の要件は撤廃)
なお、被相続人が70未満で死亡した場合、
または、特例承認計画に記載された特例後継者の場合は、役員要件は不要。
・贈与・相続後に筆頭株主となり、総議決権数の過半数を保有すること。

上記の「資産管理会社に該当しないこと」という要件が、
不動産オーナーの会社にとって最大のハードルとなります。

3.資産管理会社とは
事業承継税制の適用要件上、
「資産管理会社」に該当する会社は原則として制度利用が認められません。
資産管理会社とは、
(1)資産保有型会社または
(2)資産運用型会社に該当する会社です。

(1)資産保有会社
資産保有型会社とは、貸借対照表の総資産に
占める特定資産(※)の割合が70%以上の会社をいいます。
資産のほとんどが賃貸不動産であれば該当する可能性があります。
(※) 特定資産とは次に掲げるような資産をいいます。
① 国債、地方債、上場株式、資産管理会社の持分
② 自社で実際に使用していない不動産(賃貸不動産など)
③ ゴルフ会員権
④ 書画骨董、貴金属、宝石など
⑤ 現預金、会社の代表者や同族関係者に対する貸付金

(2)資産運用会社
資産運用会社とは、会社の総収入のうち、
株式配当や不動産賃料など特定資産の運用収入が占める割合が75%以上の会社を指します。
例えば不動産賃貸業を営む会社で、
収入の75%以上が家賃収入であれば資産運用型会社に該当します。

要するに、大家さんの不動産所有会社は何も対策しなければ、
資産管理型会社とみなされ、原則として
事業承継税制の恩恵を受けられないことになります。

4.資産管理会社でも適用を受けるには
しかし、一定の要件を満たし、
実質的な事業の実態(事業継続の実態)があると認められる場合には
「資産管理会社に該当しない」こととなり、
制度適用を受けられることになります。

この「事業実態要件」と呼ばれる例外適用の要件は3つあり
すべてを満たす場合に資産管理会社ではないものとみなされます。

(1)3年以上にわたり事業を継続して行っていること
少なくとも過去3年以上、商品の販売や役務提供等によって
継続的に対価を得る事業活動を営んでいることが必要です。
設立後間もない会社(3年未満)は
この要件を満たせないため注意が必要です。

(2)事務所・店舗・工場など固定施設を所有または賃借していること
従業員が常時勤務するためのオフィスや店舗等の物件を
会社として保有または賃貸していることが求められます。
自宅や事業と無関係な施設は事務所として認められません。

(3)常時使用従業員を5人以上雇用していること
社会保険に加入する常勤の従業員が5名以上いることが必要です。
ここでいう従業員には、
後継者本人や後継者と生計を一にする親族は含められません。
親族でも別生計であれば含められます。
ただし、パート・アルバイト等で社会保険未加入の場合は
人数にカウントされない点にも注意が必要です。

以上の3要件をすべて満たせば、
たとえ形式上は資産保有型/運用型会社に該当するとしても
「資産管理会社ではない」とみなされて
事業承継税制の適用対象になり得るわけです。

5.まとめ
大家さんの不動産所有会社であっても、
事業実態要件を満たすことで事業承継税制の適用を受けることは可能です。
しかしながら、
制度本来の趣旨から外れた形だけの対策は認められず、
相応の事業規模・実態を備えて初めて適用ができることになります。

事業承継税制は強力な節税メリットがある反面、
制度が複雑で適用後の義務も多いため、
使いこなすのが難しい制度です。
専門家のサポートを得て計画的に進めることをお勧めします。

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ABOUT ME
渡邊浩滋
大家さん専門税理士事務所、渡邊浩滋総合事務所代表。当サイトを運営する大家さん専門税理士ネットワーク「Knees(ニーズ)」代表。 自らも両親から引き継いだアパートを経営する大家であり、「全国の困っている大家さんを助けたい」という夢を叶えるべく日々奔走している。 全国でのセミナー出演、コラム執筆等多数。
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