●「遺言について」
こんにちは。弁護士の関です。
今月は「遺言について」を書いていきます。
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●遺言の作成手順
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遺言を残したいと考える場合、次のような手順で作成します。
①遺言の内容の検討
↓
②遺言の文案の作成
↓
③方式に従って遺言の作成
↓
④作成した遺言の保管
以下、それぞれの段階のポイントについて説明します。
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●①遺言の内容の検討、②遺言の文案の作成
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遺言の内容の検討ですが、まず遺言者(遺言を残す人、被相続人)の
法定相続人(民法で定められた相続人。配偶者相続人と血族相続人)が
だれかを確認します。正確には戸籍謄本等の資料により確認します。
特に、公正証書遺言を作成する場合には、公証役場によりその確認が必要になります。
相続人関係図を作成すると漏れなく相続人を把握することができます。
次に遺言者の財産を確認します。
不動産であれば登記事項証明書、預貯金であれば通帳、
上場株であれば証券会社の明細など、それぞれ財産を特定するための資料も用意します。
法定相続人の法定相続分(民法で定められた相続分)や
遺留分(後述)も頭に入れながら財産の配分内容を考えるため、
それぞれの財産の評価が分かる資料も用意します。
相続税対策のために、税理士さんに不動産や中小企業の
自社株に関する相続税評価を出してもらうこともあります。
そして、だれに、どの財産を分配するかなど、
遺言の内容を検討します。
遺言に書く内容ですが、法律上遺言としての効力が認められるのは、
法定の遺言事項に限られます。法定の遺言事項とは別に、
付言事項として、遺言者の気持ちを書くことがありますが、
遺言としての法的効力はありません。
遺言事項の例は次のとおりです。
・特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言
(遺産分割方法の指定)
これにより法定相続人への配分が法定相続分を超える場合には、
相続分の指定(民法902条)としての効力も有します。
「第○条 遺言者は、遺言者が所有する次の土地を、
遺言者の妻○(昭和○年○月○日生)に相続させる。(以下省略)」
・特定遺贈(同964条)
法定相続人以外に財産を無償で譲与する場合には、
「相続させる」ではなく「遺贈する」と記載します。
「第○条 遺言者は、遺言者が所有する次の土地を、
遺言者の甥○(平成○年○月○日生、住所:東京都○区○)に遺贈する。(以下省略)」
・遺言執行者の指定(同1006条)
預貯金の解約手続など、遺言の内容を実現する人を指定することができます。
「第○条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として、次の者を指定する。(以下省略)」
・祭祀主宰者(祭祀財産承継者)の指定(同897条1項但書)
系譜、祭具及び墳墓の所有権は一般の相続の対象とはならず、
祖先の祭祀を主宰すべき者が承継しますが、その祭祀主宰者を遺言により指定することができます。
「第○条 遺言者は、祖先の祭祀を主宰すべき者として、
遺言者の長男○(平成○年○月○日生)を指定する。」
そのほか、遺言を作成する上での留意点を2点説明します。
まず、遺言は、遺言能力
(自分のする遺言の内容及びその結果生ずる法律効果を理解判断することのできる能力)が
必要ですが(同963条)、
遺言能力があれば、未成年であっても、満15歳に達すれば、親の同意なく、
遺言を残すことができます(同961条、962条)。
通常、遺言を残すのは、年を重ね、自分の財産を形成してからになりますが、
ご高齢となり、物忘れなどの認知症状が出てくると、
遺言能力があるか否かの判断が難しくなります。仮に遺言能力があったとしても、
遺言の内容が不利となる相続人からは、
遺言者の死後に、遺言者には遺言時点において遺言能力がなかったのではないかと、
その遺言の効力が争われることがあります。
従って、遺言を作成するのであれば、
無用な争いを避けるために、判断能力に疑義が生じないうちに、
早めに取り組むことを心がけましょう。
次に、法定相続人(ただし、血族相続人のうち兄弟姉妹を除く)には
遺留分(いりゅうぶん)という権利があります。
遺留分とは、遺言や生前贈与によっても被相続人が自由に処分できない一定割合のことをいい、
法定相続人の最低限の持分と考えてください。
例えば、父・母・長女・長男の4人家族で、父が被相続人とします。この場合には、
法定相続人である母・長女・長男には遺留分があり、
その割合は、1/4、1/8、1/8となります
(法定相続人の組み合わせにより遺留分の割合が異なります)。
このケースで、父が、全ての遺産
(8000万円相当)を母に相続させる旨の遺言を残した場合、
長女と長男は、その遺言により、
最低限もらえるはずであった遺留分
(それぞれ1000万円相当)を侵害されたとして、
母に、それぞれ1000万円を払うように請求することができます。
財産の配分内容を考えるにあたっては、
このような遺留分の争いが生じないように、
法定相続人の遺留分に配慮するよう心がけましょう。
ただし、遺留分という制度は大変複雑で難しく、
また前述の相続税対策も考える必要がありますので、
遺言の内容を考え、その文案を作成するにあたっては、
弁護士・司法書士・税理士などの専門家に相談するとよいでしょう。
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●③方式に従って遺言の作成、④作成した遺言の保管
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遺言の文案ができたら、実際に遺言を作成します。
遺言は法律に定める一定の厳格な方式に従ってなされなければなりません(民法960条)。
この方式に従わないで作成しても、遺言としての効力がなく、注意が必要です。
遺言の方式(普通方式)には、自筆証書遺言、
公正証書遺言、秘密証書遺言の3つがあります(同967条)。
それぞれの方式については、第3回で説明します。
作成した遺言は、紛失しないように保管しておく必要があります。
自筆証書遺言については特別に法務局が保管する制度もあります。
この保管については、第4回で説明します。
