●「遺言について」
こんにちは。弁護士の関です。
今月は「遺言について」を書いていきます。
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●遺言の方式(普通方式)
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前回、①遺言の内容を検討し、
②遺言の文案を作成する場面まで説明しました。
今回は、その文案に基づいて、
③実際に遺言を作成する場面で必要となる方式について説明します。
この方式に従わないで作成しても、
遺言としての効力がありませんのでご注意ください。
遺言の方式(普通方式)には、自筆証書遺言、公正証書遺言、
秘密証書遺言の3つがあり(民法967条)、いずれかを選択します。
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●自筆証書遺言
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自筆証書遺言は、遺言者が、遺言書の「全文」、
「日付」及び「氏名」をすべて自分で書き(「自署」)、
「押印」して作成する方式の遺言です(民法968条1項)。
全文を自署するのが原則ですが、相続財産目録についてのみ、
自署によらないで済むという例外があります(同条2項)。
ただし、署名、押印するなどの例外の要件がありますので、
できれば、相続財産目録を作成しなければならないような
遺産が多くある遺言の場合には、
自筆証書遺言よりも公正証書遺言を選択することをお勧めします。
全文を自署し、日付と氏名を自署し、
署名の下に押印すれば作成できます。
作成した遺言書は封筒に入れておくことが多いですが、
封筒に入れることは必須の要件ではありません。
他の遺言のような証人の立ち会いは不要で、
思い立ったときにその場で自分一人でも作成できるので、
もっとも手軽に作成できる方式といえます。
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●公正証書遺言
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公正証書遺言は、遺言者が遺言の内容を公証人に伝え、
公証人がこれを筆記して公正証書による
遺言書を作成する方式の遺言です(民法969条)。
簡単にいうと、公証役場で作成してもらう遺言です。
公証役場は全国にあり、どの公証役場でも作成可能です。
※ 日本公証人連合会Webサイト「公証役場一覧」
https://www.koshonin.gr.jp/list
公正証書遺言を作成する際は、公証役場を選択し、
連絡して、所属の公証人に事前に遺言の文案を見てもらいます
(文案がないまま公証人に事前相談をすることももちろん可能です)。
公証人は、その文案を見て(もしくは相談を受けた後)、
公正証書遺言の文案を作成します。
また、必要書類や費用について伝えられます。
文案が完成したら、遺言者が公証役場に行き、
公証人から公正証書遺言の文案について確認がなされ、
遺言者が署名押印して完成させます。
また、公正証書遺言作成当日は、2名の証人が立ち会い、
証人も署名押印します。証人は自分で用意するのが原則ですが、
難しければ、公証役場で手配してもらうことも可能です
(ただし、証人の日当がかかります)。
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●秘密証書遺言
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秘密証書遺言は、
遺言者が遺言内容を秘密にして遺言書を作成したうえで、
封印をした遺言証書の存在を明らかにする、
しかもこの過程に公証人を関与させる方法で行われる遺言です(民法970条)。
作成した遺言書の内容は封をするため第三者に知られることがありませんが
(ただし、封をする前に第三者に見られることはあります)、
封筒の中の遺言書が間違いなく
自分のものであることを公証役場で明らかにする遺言です。
秘密証書遺言を作成するには、
まず、遺言書を作成します。自筆証書遺言と異なり、
パソコンで作成することもできます。そして、
この遺言書に、「署名」、「押印」します。
その遺言書を封筒に入れて糊付けし、
遺言書に押印した印章と同じ印章で封印します。
公証役場を選択し、連絡して、必要書類や費用について確認します。
そして、遺言者が公証役場に行き、封紙を提出し、
自己の遺言書である旨ならびに遺言者の氏名・住所を申述し、
公証人が、その封紙上に日付及び遺言者の申述を記載した後、
遺言者がその封紙に署名押印して完成させます。
秘密証書遺言作成当日は、2名の証人が立ち会い、
証人も署名押印します。証人の手配については、
公正証書遺言と同じです。
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●自筆証書遺言と公正証書遺言の違い
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秘密証書遺言を選択するケースはあまりないため、
自筆証書遺言と公正証書遺言の違いについて、
いくつかの項目ごとに比較します。
・手軽さ
公正証書遺言は公証人との打合せや証人2人の手配が必要になるため、
自筆証書遺言の方が手軽に作成できるといえます。
・作成場所
自筆証書遺言は、どこでも作成したい場所で作成できますが、
公正証書遺言は、原則として、選択した公証役場において作成します。
ただし、公証人は出張対応可能なので、入院中など外出できない場合には
公証人に来てもらうことも可能です。
・費用負担
自筆証書遺言は作成費用がかかりません。
ただし、任意に専門家に相談する場合には、その相談料等がかかります。
これに対し、公正証書遺言は作成費用がかかります。
※ 日本公証人連合会Webサイト「2 遺言」→
「3 公正証書遺言の作成」→
「Q7 公正証書遺言の作成手数料は、どれくらいですか?」
https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow02
・形式・内容不備のおそれ
自筆証書遺言は、自分一人で作成できるため、
形式不備や内容不備により無効になる可能性があります。
そのため、専門家に相談することをお勧めします。
これに対し、公正証書遺言は、公証人が作成するため、
形式不備や内容不備になる可能性がほぼありません。
・紛失・隠匿・偽造のおそれ
自筆証書遺言は、紛失したり、だれかが隠匿したり、
偽造されるリスクがあります。
そのため、自筆証書遺言の保管制度の利用を検討してください
(第4回で説明します。以下同じ)。
これに対し、公正証書遺言の場合には、
その原本が公証役場で保管されるため、この原本の紛失、隠匿、
偽造のおそれはほぼありません。
・相続人による探索のし易さ
自筆証書遺言は、
予め相続人や遺言執行者にその存在や保管場所を知らせていなければ、
遺言者の死後に相続人らが探すのに苦労します。
そもそも遺言書を残したのか否かも分かりません。
ただし、前述の保管制度を利用するとこの懸念がなくなります。
これに対し、公正証書遺言の場合には、遺言者の死後、
相続人が公証役場に行けばその有無を検索してもらうことができます。
検索だけであれば、どこの公証役場でも可能です。
その結果、公正証書遺言を保管している公証役場が見つかれば、
その公証役場で謄本を請求することができます。
・検認の要否
自筆証書遺言は、その遺言書を発見した者が、
家庭裁判所においてその遺言書の検認申立てをする必要があります。
この検認手続を経なければ、遺言執行ができませんが、
検認手続には少し時間がかかります。ただし、
前述の保管制度を利用すると検認手続が不要になります。
これに対し、公正証書遺言では検認手続が不要となり、
すぐに遺言を執行することができます。
以上、簡単に比較をしましたが、
遺言が有効か無効かは、遺言者の死後に判明します。
そのときに万が一無効であることが判明すると、
新たに遺言を作成してもらうことができないため、
取り返しのつかないことになります。従って、原則としては、
公正証書遺言を選択することをお勧めします。
ただし、遺言者の死期が近く、
公正証書遺言の準備をしている余裕がない場合などには、
自筆証書遺言を選択するか、もしくは、
とりあえずの自筆証書遺言を作成しておき、
平行して、公正証書遺言の準備を行うというような
二段構えで取り組んでもよいでしょう。
