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専門家が斬る!真剣賃貸しゃべり場
【第429回】不動産鑑定士・住宅診断士
皆川 聡が斬る!④

賃料値上げ交渉を成功させるための4つのポイント

こんにちは。今月のコラムを担当いたします、
不動産鑑定士・住宅診断士の皆川聡です。

前回までは、賃料改定における方法や注意点、
交渉成功のポイントについてご紹介いたしました。

今回はさらに一歩踏み込み、
「住宅(建物)診断の視点が、
なぜ継続賃料の鑑定評価において不可欠なのか」について、
実例を交えてご説明いたします。

一般的には、居住用物件の賃料改定において、
鑑定評価書までは必要ないと考えられる
場面も多いかもしれません。

しかしながら、「鑑定費用」と「賃料増額効果」
「出口戦略による資産価値向上」を
総合的に勘案すれば、
むしろ専門的な評価を導入することで
費用以上の成果を得るケースが少なくないのです。

たとえば、ある地域のワンルームで、
相手方賃借人様が不動産会社で、
その月額賃料7万円と割安でした。
それを、弊社鑑定でもって9万円への賃料増額改定が実現し、
さらに2年後の売却時には鑑定費用を大きく上回る
利益を得たケースがありました。

このような成果の背景には、
「鑑定評価+住宅(建物)診断」による
裏付けと説得力ある資料の存在がありました。
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鑑定評価における住宅(建物)診断の必然性
1. 賃料積算法の正当化に不可欠な住宅(建物)診断
賃料評価において、
オーナーが行った大規模修繕や設備更新、
税負担の増加などを賃料に
適切に転嫁するために有効なのが「積算法」です。

しかし、積算法の核心である
「投下資本の回収」論理を、
実際の建物状況と照合せずに机上で完結させてしまえば、
説得力に乏しい評価に留まります。

特に次のようなケースが頻発します。

前所有者の管理不足により、
空室率対策として低廉な賃料で契約された物件を、
現オーナーが修繕・改修し魅力ある物件に再生した。
しかしながら、その改善が数字に反映されず、
賃料は実は据え置かれたままの状態。

このような状況を是正するには、
「いつ」「どのように」
「どれだけの資本を投下して」「建物がどのように改善されたか」
という建物の状態改善プロセスを、
第三者が客観的に証明する必要があり、
それこそが住宅(建物)診断の専門領域です。

住宅(建物)診断により得られる定性評価は、
積算法による積算賃料の合理性・
正当性を支える根拠として不可欠です。
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2. 継続賃料固有の価格形成要因の的確な把握のために
平成26年改正の不動産鑑定評価基準では、
「継続賃料固有の価格形成要因」の把握が明示されました。
これは、これまでの形式的な評価手法では対応できなかった、
契約履歴や特殊事情を適切に反映するための改正です。

具体的には以下のような事情が該当します:
•契約当初の賃料が空室リスクや
所有者事情により一時的に低く抑えられていた
•コロナ禍や景気変動、店舗等事業経営悪化による一時的減額の履歴
•建物修繕による性能・快適性の向上
•居住用途から勝手に店舗事務所用途への無断転用
(固定資産税等急激な増額により判明)

このような背景事情を「価格形成要因」として
評価に組み込むには、
単に過去の契約書を見るだけでは不十分です。

現時点の建物の性能・状態の改善が、
どのように居住者満足度や市場競争力に寄与しているのかを、
住宅(建物)診断を通じて
把握・定性化・定量化する必要があるのです。

しかし、実際の裁判鑑定や調停の場においても、
建物の劣化・修繕状況についての記載が殆どなく、
鑑定評価書そのものの本来持つべき効果が、
十分に発揮しきれていない例も少なくありません。

だからこそ、住宅(建物)診断の活用は、
継続賃料の適正評価において単なる補助的役割ではなく、
寧ろ中心的な役割を果たすべき存在であると考えます。
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【まとめ】
「賃料改定に鑑定評価までは不要」とされる風潮も一部にありますが、
費用対効果と資産戦略全体を見据えるならば、
住宅(建物)診断と鑑定評価を併用することこそが極めて
合理的かつ戦略的な判断であると考えます。

専門家による論理的・客観的評価資料をもって
交渉に臨むことで、入居者のみならず、
調停委員や裁判官からも「正当かつ公平」と
認識される賃料の算出が可能になります。

皆様の資産を守り、安定した収益構造を築くうえでも、
住宅(建物)診断の視点を取り入れた賃料評価は
今後ますます必須のアプローチ方法となるでしょう。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
本稿が、皆様の賃貸経営・資産形成の一助となれば幸いです。

ABOUT ME
皆川聡
株式会社Aoi不動産鑑定 大手不動産鑑定会社に約8年従事し、メガバンク、政府系金融機関、地銀、信用金庫、信用組合などの金融機関の担保評価をメインに約2500件の案件を携わり、国際線ターミナルの評価の実績もあり。 退職後、平成27年4月に開業。 開業後は、税務対策の鑑定評価や裁判調停等の鑑定評価での多数実績。住宅診断を反映した鑑定評価にて、より清緻な鑑定評価を行っており、鑑定評価額だけではなく、皆様の建物の日ごろのメンテナンスのポイントなどもご提案し、ご好評をいただいております。また2020年10月には、相続税の還付請求にて、他の不動産鑑定士が国税不服審判所にて否認された案件を、その後当職が不動産鑑定を担当。圧倒的な不動産鑑定評価により、東京地裁において、国税庁との裁判で無事完全勝訴しております。
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