賃料値上げ交渉を成功させるための4つのポイント
こんにちは。今月のコラムを担当いたします、
不動産鑑定士・住宅診断士の皆川聡です。
前回までは、賃料改定における方法や注意点、
交渉成功のポイントについてご紹介いたしました。
今回はさらに一歩踏み込み、
「住宅(建物)診断の視点が、
なぜ継続賃料の鑑定評価において不可欠なのか」について、
実例を交えてご説明いたします。
一般的には、居住用物件の賃料改定において、
鑑定評価書までは必要ないと考えられる
場面も多いかもしれません。
しかしながら、「鑑定費用」と「賃料増額効果」
「出口戦略による資産価値向上」を
総合的に勘案すれば、
むしろ専門的な評価を導入することで
費用以上の成果を得るケースが少なくないのです。
たとえば、ある地域のワンルームで、
相手方賃借人様が不動産会社で、
その月額賃料7万円と割安でした。
それを、弊社鑑定でもって9万円への賃料増額改定が実現し、
さらに2年後の売却時には鑑定費用を大きく上回る
利益を得たケースがありました。
このような成果の背景には、
「鑑定評価+住宅(建物)診断」による
裏付けと説得力ある資料の存在がありました。
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鑑定評価における住宅(建物)診断の必然性
1. 賃料積算法の正当化に不可欠な住宅(建物)診断
賃料評価において、
オーナーが行った大規模修繕や設備更新、
税負担の増加などを賃料に
適切に転嫁するために有効なのが「積算法」です。
しかし、積算法の核心である
「投下資本の回収」論理を、
実際の建物状況と照合せずに机上で完結させてしまえば、
説得力に乏しい評価に留まります。
特に次のようなケースが頻発します。
前所有者の管理不足により、
空室率対策として低廉な賃料で契約された物件を、
現オーナーが修繕・改修し魅力ある物件に再生した。
しかしながら、その改善が数字に反映されず、
賃料は実は据え置かれたままの状態。
このような状況を是正するには、
「いつ」「どのように」
「どれだけの資本を投下して」「建物がどのように改善されたか」
という建物の状態改善プロセスを、
第三者が客観的に証明する必要があり、
それこそが住宅(建物)診断の専門領域です。
住宅(建物)診断により得られる定性評価は、
積算法による積算賃料の合理性・
正当性を支える根拠として不可欠です。
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2. 継続賃料固有の価格形成要因の的確な把握のために
平成26年改正の不動産鑑定評価基準では、
「継続賃料固有の価格形成要因」の把握が明示されました。
これは、これまでの形式的な評価手法では対応できなかった、
契約履歴や特殊事情を適切に反映するための改正です。
具体的には以下のような事情が該当します:
•契約当初の賃料が空室リスクや
所有者事情により一時的に低く抑えられていた
•コロナ禍や景気変動、店舗等事業経営悪化による一時的減額の履歴
•建物修繕による性能・快適性の向上
•居住用途から勝手に店舗事務所用途への無断転用
(固定資産税等急激な増額により判明)
このような背景事情を「価格形成要因」として
評価に組み込むには、
単に過去の契約書を見るだけでは不十分です。
現時点の建物の性能・状態の改善が、
どのように居住者満足度や市場競争力に寄与しているのかを、
住宅(建物)診断を通じて
把握・定性化・定量化する必要があるのです。
しかし、実際の裁判鑑定や調停の場においても、
建物の劣化・修繕状況についての記載が殆どなく、
鑑定評価書そのものの本来持つべき効果が、
十分に発揮しきれていない例も少なくありません。
だからこそ、住宅(建物)診断の活用は、
継続賃料の適正評価において単なる補助的役割ではなく、
寧ろ中心的な役割を果たすべき存在であると考えます。
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【まとめ】
「賃料改定に鑑定評価までは不要」とされる風潮も一部にありますが、
費用対効果と資産戦略全体を見据えるならば、
住宅(建物)診断と鑑定評価を併用することこそが極めて
合理的かつ戦略的な判断であると考えます。
専門家による論理的・客観的評価資料をもって
交渉に臨むことで、入居者のみならず、
調停委員や裁判官からも「正当かつ公平」と
認識される賃料の算出が可能になります。
皆様の資産を守り、安定した収益構造を築くうえでも、
住宅(建物)診断の視点を取り入れた賃料評価は
今後ますます必須のアプローチ方法となるでしょう。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
本稿が、皆様の賃貸経営・資産形成の一助となれば幸いです。
