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公正証書で遺言書を作成すれば安心か?

渡邊浩滋の賃貸言いたい放題 第235回

相続税の基礎から応用までわかりやすくQ&A方式で解説していきます。

Q父が認知気味になっているので、
早く遺言書を作成したいと思っています。
公正証書遺言で作成できれば、
有効性については問題ないと考えてよいでしょうか?

 

A
公正証書遺言は公証人という法律の専門家が関与して作成されるため、
自筆証書遺言と比較して方式の不備による無効リスクは格段に低いとされています。
公証人は遺言者本人と直接面談し、
本人確認や意思能力の確認を行った上で遺言書を作成します。

しかしながら、公正証書遺言であっても、
遺言者が遺言作成時に意思能力を欠いていた場合には、
無効と判断される可能性があります。

1.なぜ公正証書遺言でも無効になるのか
遺言が有効であるためには、遺言者が遺言作成時に
「遺言能力」、すなわち遺言の内容とその結果を
理解・判断する能力を有していることが必要です。
この能力は民法上の「意思能力」に相当するものであり、
これを欠く状態でなされた遺言は無効となります。

公証人が関与する公正証書遺言であっても、
公証人と遺言者との面談は通常短時間にとどまります。
そのため、認知症等により認知機能が低下している遺言者であっても、
その低下が見過ごされてしまうケースがあるのです。

短時間の面談では遺言者の真の状態を見抜くことが困難なことがあります。

2.意思能力欠如により無効とされた近年の判例
(1)東京地裁平成29年3月29日判決
中程度のアルツハイマー型認知症を患う母親が作成した
公正証書遺言の効力が争われました。
遺言者はMMSE(認知機能検査)のスコアが23点満点中8点という低い数値でしたが、
公証人や弁護士との短時間の面談では受け答えがしっかりしており、
一見正常に見えていたとされています。

裁判所は、認知症患者には初対面の相手に対して
如才なく応答して認知低下を隠す「取り繕い現象」があることを指摘しました。
さらに本件では、遺言者が面談前に応答の練習までさせられていた
事実が認定されています。遺言内容を理解する能力は欠如していたとして、
公正証書遺言は無効と判断されました。

(2)東京地裁令和3年3月5日判決
遺言者はアルツハイマー型認知症を発症後
会話も困難な状態にあり、
遺言作成時の認知機能テスト(HDS-R)得点はわずか4点でした。
医療記録によれば、
自分の居場所や年齢、
季節さえ答えられない状態であり、
看護記録にも「病院にいることや年齢・入院時期を質問されても答えられない」
旨が記載されていました。
遺言者に意思能力はなかったとして遺言を無効と判断しました。

(3)東京地裁令和4年11月24日判決
脳卒中後の高次脳機能障害による認知障害を理由に、
公正証書遺言が2通とも無効とされました。
遺言者は平成29年5月に脳出血で倒れ、
以後「認知症状あり」と診断されました。
同年7月のHDS-Rテストでは4点しか取れず、
入院中から意味不明な言動や失禁行為が見られていました。
この状態で平成29年11月に複雑な内容の公正証書遺言を作成し、
翌年10月にも二つ目の公正証書遺言を作成しましたが、
その時点ではHDS-Rが0点で意思疎通も困難な状態でした。

裁判所は、脳血管障害による認知機能障害は
不可逆的で一時的改善も見込めないことを重視し、
両方の遺言について意思能力がなかったとして無効と判断しました。

3.遺言の有効性を確保するために
以上のように公正証書遺言だから大丈夫ということではないのです。
医師の診断書やカルテ、
介護記録、認知機能検査の結果
(長谷川式スケールやMMSEの点数など)が
決定的な役割を果たします。

また、遺言作成時の様子と証人供述も評価されます。
遺言者が公証人や立会人とのやり取りを適切にこなせていたか、
質問に対する反応時間や内容がどうだったかが問題となります。

公証人への応答が瞬時でなく熟慮の跡が見られたか、
逆に曖昧な相槌ばかりであったか、
長時間同意の返答ができなかったかなどが、
判断力の有無を推し量る材料になります。

さらに、遺言内容の難易度や整合性も判断に影響します。
遺言の内容が遺言者にとって理解しやすい単純なものか
複雑で難解なものかが考慮されます。
複数の不動産を入り組んだ形で配分する複雑な遺言は、
認知症が進行した高齢者には理解できなかった可能性が高いと判断されます。

対策としては、遺言作成前後に認知機能テスト
(長谷川式スケールやMMSE)を実施し、
その結果を記録しておくことが有効です。

遺言作成時の様子を映像や録音で記録しておくことも、
後日の紛争において遺言者の状態を証明する重要な資料となります。
さらに、主治医に遺言能力についての
意見書を作成してもらうことも検討すべきでしょう。

4.まとめ
公正証書遺言は、公証人という専門家が関与することで
一定の信頼性が担保されていますが、それだけで「絶対に安心」とはいえません。

ご自身やご家族の遺言作成をお考えの方は、
専門家に相談しながら、
適切な時期に適切な方法で遺言を作成されることをお勧めいたします。

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渡邊浩滋
大家さん専門税理士事務所、渡邊浩滋総合事務所代表。当サイトを運営する大家さん専門税理士ネットワーク「Knees(ニーズ)」代表。 自らも両親から引き継いだアパートを経営する大家であり、「全国の困っている大家さんを助けたい」という夢を叶えるべく日々奔走している。 全国でのセミナー出演、コラム執筆等多数。
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