本稿では、前回(第15回「平成31年から変わること②(個人版事業承継税制について①)」を参照ください。)に引続き、個人版事業承継税制「個人事業者の事業用資産に係る相続税及び贈与税の納税猶予制度」について「平成31年度税制改正大綱」などにより明らかにされている部分について平成30年12月31日時点での考察をしていきます。
1. 不動産賃貸経営については適用対象外
被相続人(贈与者)の事業からは不動産貸付業等を除くものとされていることから、アパートやマンションの賃貸経営を行っている個人事業者は当該制度の対象外となります。
よって、不動産貸付業を営む事業者の事業承継についてはこれまでどおり「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(小規模宅地等の特例)」などの活用を中心に検討することとなると考えられます。
2. 制度を活用するために必要となる手続き
個人版事業承継税制を活用するためには、①経営承継円滑化法に基づく認定、②平成31年度から5年以内(平成31年4月1日から平成36年3月31日までの間)に都道府県庁に予め承継計画を提出する必要があるとされており、基本的には法人向け制度と同様の手続きを行うこととなりそうです。
なお、法人向け制度で必要となる承継計画は5年間の事業計画の記載が必要となっており、認定経営革新等支援機関である税理士等の指導等を受けて作成をしますので、個人の場合も同様と想定をしておく必要があると考えられます。
3. 相続時精算課税制度と贈与税の納税猶予制度
贈与税の納税猶予制度では、認定受贈者が贈与者の直系卑属である推定相続人以外の者であっても、その贈与者が贈与をする年の1月1日において60歳以上である場合には、相続時精算課税制度の適用を受けることができることとされており、親族外でも相続時精算課税制度を活用しての事業承継が可能となっています。
しかし、親族外への相続時精算課税制度を活用しての事業承継の最大の問題点としては、個人事業者である贈与者の死亡時の相続税の申告書が当該親族外受贈者にも開示することとなり、他人である親族外受贈者に相続財産の全てをその取得状況などの個人情報とともに知られてしまうことです。
私見となりますが、この問題点をクリアしないことには実際の適用は増加しないと考えられます。
4. 小規模宅地等の特例との選択適用
⑴ 小規模宅地等の特例の改正
個人版事業承継税制の創設に伴い、小規模宅地等の特例について特定事業用宅地等の範囲から相続開始前3年以内に事業の用に供された宅地等を除外する改正が行われ、先年改正がされた貸付事業用宅地等と同様の措置がされています。
私見となりますが、これまでも小規模宅地等の特例については制度の趣旨に沿わない節税対策が行われてきた事例が多数あることから、被相続人の相続開始(死亡)前3年以内に事業を開始し節税目的で特例の適用を受けることがないように措置されたものと考えられます。
よって、以下のように相当の投資がされているものについては適用除外をしない(小規模宅地等の特例の適用を受けられる)こととされてもいます。
当該宅地等の上で事業の用に供されている 減価償却資産の価額 |
≧ | 当該宅地等の相続時の価額×15% |
⑵ 個人版事業承継税制とは選択適用
過度の優遇とならないように、小規模宅地等の特例は個人向け制度との選択適用とされています。
⑶ 実務への影響
平成31年4月1日以後に相続等により取得する財産に係る相続税について適用するものとされていますが、同日前から事業の用に供されている宅地等については適用しないものとされています。
また、適用除外となるのは「相続開始前3年以内に事業の用に供された宅地等」であることから急場の相続対策以外(相続開始前3年超事業の用に供されている場合)にはこれまでどおり適用が可能となるので実際問題としての影響は大きくないものと考えられます。
まとめ
個人版事業承継税制には相続税と贈与税の双方の制度が設けられることとなっています。基本的には贈与税の猶予制度の適用を受けられることが望ましい(相続税の猶予制度の適用を受けるケースは被相続人(現経営者)がその死亡時まで事業用資産を手放さないことを意味するため)です。
しかし、事業承継には税金の問題と併せて、現経営者と後継者との思い描く今後の家族や事業の在り方を無視して進めることはできません。そのため、本制度などを契機にして親族間などで時には第三者を交えての話し合いをしていくことが必要と考えています。