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【第339回】弁護士 関 義之が斬る!     「令和3年改正民法・改正不動産登記法等(相続に影響する部分)について」 その2

●「令和3年改正民法・改正不動産登記法等(相続に影響する部分)について」

こんにちは。弁護士の関です。

今月は「令和3年改正民法・改正不動産登記法等(相続に影響する部分)について」
を書いていきます。

●不動産登記制度の見直し

今回の不動産登記法の改正では、所有者不明土地の発生予防の観点から、
その発生原因となっている相続登記や住所変更登記が
未了であることに対応するため、
相続登記や住所等の変更登記の申請を義務づけました。
ほかにも様々な改正事項や実務運用の変更がなされていますが、
今回は、このうち、相続に影響する改正について説明します。
その他の改正事項については、前掲の法務省のウエブサイトをご覧ください。

●相続登記の申請の義務化

現行の不動産登記法では相続登記の申請は義務とされておらず、
所有権の登記名義人が死亡して相続が発生しても相続登記がなされないことが、
所有者不明土地の主な発生原因であるとされています。
そのため、今回の不動産登記法の改正では、
相続(遺産分割を含む)や遺贈により不動産を取得した相続人に対し、
自己のために相続の開始があったことを知り、
かつ、当該所有権を取得したことを知った日から
3年以内に相続登記の申請をすることが義務づけられました
(改正不動産登記法76条の2第1項)。
また、法定相続分での相続登記がされた後に遺産分割が成立したときは、
当該遺産の分割によって当該相続分を超えて所有権を取得した者に対し、
当該遺産の分割の日から3年以内に遺産分割の結果を踏まえた相続登記の
申請をすることが義務づけられました(同条第2項)。
そして、正当な理由がないのにこれらの申請を怠ったときは、
10万円以下の過料に処されることになりました
(改正不動産登記法164条)。
どのような場合に正当な理由を満たすかについては、
今後通達等で明確にされるそうです。
これらの改正は、令和6年4月1日に施行されます。
注意しなければならないのは、
施行日前に相続が発生していたケースについても
登記の申請義務が課されるということです。
もっとも、施行日前に要件を満たしたとしても
(例えば、施行日前に相続により所有権を取得したことを知っていたとしても)
、申告義務の履行期間である3年間は、
施行日から計算すればよいこととされています(改正法附則5条6項)。

●相続人申告登記の新設

また、相続登記の申請の義務化に伴い、
その申請義務を簡易に履行することができるようにするために、
「相続人申告登記」という新たな登記制度を設けました(
改正不動産登記法76条の3)。
具体的には、前述の相続登記の申請義務を負う者が、
登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び
自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申出(同条1項)
した場合に、登記官が、職権で、
その旨並びに当該申出をした者の氏名及び住所その他法務省令で定める事項を
所有権の登記に付記する制度です(同条3項)。
相続登記の申請義務の履行期間内にこの申出をした者は、
相続登記の申請義務を履行したものとみなされます。
ただし、この申出の前に遺産分割が成立している場合には、
この申出をしても申請義務を履行したものとはみなされず
(同条2項)、当該遺産分割の日から3年以内に
遺産分割の結果を踏まえた相続登記の申請が必要となります(
改正不動産登記法76条2第1項)。
この申請義務が履行したものと見なされるのは、
申出をした相続人に限られますが、他の相続人の分も
代理してまとめて申出をすることも可能とされています。
また、申出をした後に遺産分割が成立したときは、
当該遺産の分割の日から3年以内に遺産分割の結果を踏まえた
相続登記の申請をすることが義務づけられました(同条第4項)。
これらの改正も、令和6年4月1日に施行されます。

●相続人に対する遺贈による所有権移転登記が単独申請可能に

不動産登記法では、
権利に関する登記の申請は、
法令に別段の定めがある場合を除き、
登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならないとされていますが(60条)、
その例外の一つとして、相続(特定財産承継遺言
(遺産分割方法の指定と解釈される、
いわゆる「相続させる遺言」のこと、民法1014条2項参照)を含みます)
による権利の移転の登記は、
登記権利者が単独で申請できるとされています
(不動産登記法63条2項)。
一方で、現行法では、遺贈の場合には、
原則どおり、受遺者と遺言執行者(又は共同相続人)との
共同申請が必要とされています。
これが、今回の改正では、遺贈のうち、
「相続人」に対する遺贈に限って、登記権利者が単独で申請できるとされました
(改正不動産登記法63条3項)。
この改正は、令和5年4月1日に施行されます。

●所有不動産記録証明制度の新設

現行の不動産登記法には、名寄せして、
特定の者が所有権の登記名義人となっている不動産を抽出し、
公開する仕組みは存在していません。そのため、
相続時に相続人が相続対象である全ての不動産を把握しきれず、
相続登記がなされないまま放置される不動産が発生することがありました。
そこで、今回の不動産登記法の改正で、
登記官において、特定の者が所有権の登記名義人として
記録されている不動産をリスト化し、
証明書を交付する所有不動産記録証明制度ができました
(改正不動産登記法119条の2)。
自分の不動産についての証明書は、
何人も申請できますし(同条1項)、
被相続人その他の被承継人にかかる証明書については
相続人その他の一般承継人が申請できます(同条2項)。
なお、不動産がない場合には、その旨が証明されます。
執筆時点で、この改正の具体的な施行日はまだ決まっていませんが、
令和8年4月27日までの間の政令で定める日に
施行されることになっています。

●死亡情報についての符号の表示制度の新設

現行の不動産登記法によれば、
不動産の所有権の登記名義人が死亡しても、
相続登記がなされない限り、
当該登記名義人が死亡した事実は不動産登記簿に反映されることはありません。
これが、今回の改正では、
登記所が住基ネットを通じて所有権の登記名義人の死亡情報の提供を
受けた場合など、登記官が、所有権の登記名義人の死亡等の事実を了知したときに、
職権で、死亡等の事実を符合によって表示することができるとされました
(改正不動産登記法76条の4)。
なお、法務省令で定めれば法人が
解散・清算した場合も対象に含めることができますが、
差し当たりは、自然人を対象とすることが予定されているようです。
執筆時点で、この改正の具体的な施行日はまだ決まっていませんが、
令和8年4月27日までの間の政令で定める日に施行されることになっています。

ABOUT ME
関 義之
「関&パートナーズ法律事務所 代表弁護士」 平成10年 3月に早稲田大学法学部を卒業し、 その年の10月に司法試験に合格。 1年半の司法修習を経て、平成12年10月から弁護士登録。 平成23年10月から中小企業診断士にも登録。 法人・個人を問わず幅広く紛争に関する相談を受け、 代理人として示談交渉や訴訟等に対応するほか、 契約書の作成・チェック等、 紛争が生じる前の予防法務にも力をいれている。 不動産の賃貸・売買や、 遺言・遺産分割・遺留分など相続に関する相談を、 幅広く受けている。 特に力を入れている分野は、中小企業の事業承継支援。 セミナー経験多数。 詳しくはWebサイト参照  https://seki-partners.com/
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