渡邊浩滋の賃貸言いたい放題 第208回
相続税の基礎から応用までわかりやすくQ&A方式で解説していきます。
Q相続税の納税猶予制度という制度があると聞きました。
不動産オーナーはどのような場面で適用できるのでしょうか?
A
1.相続税の納税猶予制度とは
相続税の納税猶予制度とは、特定の資産や事業を承継する際に、
本来支払うべき相続税の納付を一定条件の下で先送りし、
条件を満たし続ければ最終的に税が免除される特例制度です。
この制度の主な目的は、事業や資産の継続的な活用を促進することです。
相続時に多額の納税資金が必要になると、
事業継続や資産の維持が困難になるケースがあります。
納税猶予制度は、こうした問題を解決し、
スムーズな事業承継や資産承継を支援するために設けられています。
ただし、要件を満たさなくなると猶予が打ち切られ、
猶予税額と利子税(利息)が徴収されるため、
適用には慎重な検討が必要です。
2.不動産オーナーが適用できる納税猶予制度の種類と要件
(1)農地の相続税納税猶予の特例
被相続人の農業を一定の親族が承継し、
相続した農地で引き続き農業経営を行う場合には、
その農地に係る相続税の大部分について納税が猶予される制度です。
農家が代替わりする際に農地に高額な相続税が課税されると
農地売却や離農を招きかねないため、それを防ぐ目的で創設されました。
一定期間営農を継続すれば最終的に猶予税額の納付が免除されます。
農地には生産緑地なども含みます。
また、被相続人が生前に農地を
農業経営基盤強化法に基づくリース(特定貸付け等)に
出していた場合も対象に含まれます。
相続人(農業後継者)は原則として
相続開始直後から農業を自ら営むことが条件ですが、
近農地中間管理機構への貸付けなど一定のリースによる
継続も認められています
農地の「農業投資価格」を超える部分に対応する
相続税額が全額猶予されます。
実質的に農地の相続税負担を大幅に軽減できます。
(2)特定山林の相続税納税猶予の特例
被相続人が特定森林経営計画
(作業道の整備等を含む森林経営計画)が
定められた区域内で大規模な林業経営を行っていた場合に、
その山林を承継した相続人(林業経営相続人)が
自ら引き続き林業経営を行うことによって、
その山林に係る相続税の一部を猶予できる制度です。
林業の担い手育成と森林資源の継続管理を促す目的で創設されました。
被相続人は特定森林経営計画が定められた区域内に
合計100ヘクタール以上の作業路整備対象山林を所有し、
農林水産大臣から確認を受けていたこと等が必要です。
相続人も相続後直ちに林業経営を開始し継続し、
計画に沿った経営を行うことや、
取得した全山林を保有し続けることが求められます。
承継した特定山林の評価額の80%に対応する相続税額が猶予されます。
猶予税額は林業経営相続人が死亡するまで林業を継続すれば納付が免除されます。
(3)非上場株式等に係る相続税の納税猶予制度(法人版事業承継税制)
中小企業の非上場株式を後継者が相続(または生前贈与)で
取得した場合に、一定の要件のもとその株式に対応する相続税の納付が猶予され、
後継者の死亡時などに税が免除される制度です。
会社のオーナーから事業承継を受ける際、
納税を猶予・免除することで事業継続を容易にし、
後継者が納税資金のために株式や資産を処分せずに
済むようにする目的があります。
「一般措置」と「特例措置」があります。
一般措置では相続で取得した株式に係る
相続税の80%が猶予(贈与取得の場合は100%猶予)されます。
特例措置では相続・贈与ともに100%の相続税猶予となりますが、
2026年3月31日までに「特例承継計画」を
提出が必要など要件が厳しくなっています。
資産管理会社は対象から外れているため、
不動産オーナーが適用するためには、ハードルが高いといえます。
(4)個人事業用資産に係る相続税の納税猶予制度(個人版事業承継税制)
個人事業(法人化していない事業)の後継者が事業用資産を相続した場合に、
一定の要件のもとその事業資産に対応する相続税の納付が猶予され、
後継者(特例事業相続人等)の死亡時などに税が免除される制度です。
事業用の土地・建物・設備など「特定事業用資産」の
すべてを令和10年(2028年)までの相続または遺贈によって
取得した後継者(親族)に適用されます。
対象資産には上限があり、宅地は400㎡まで、
建物は床面積800㎡までなどの制限があります
(複数後継者がいる場合には合計面積で判定)。
2026年3月31日までに「特例承継計画」を提出することが必要です。
ただし、不動産貸付業は対象外となっているため、
賃貸アパート・マンションを所有する不動産オーナーは利用できません。
4.その他の納税猶予制度
(1)医療法人持分に係る相続税納税猶予の特例(医業承継)
持分あり医療法人(社団医療法人で出資持分が定められているもの)の
出資持分を相続した場合に適用できる納税猶予制度です。
(2)特定の美術品に係る相続税納税猶予及び免除の特例
文化的価値の高い美術品を公共の場で保存・公開しつつ相続する場合に、
相続人がその美術品を引き続き博物館等に寄託(預け入れ)
することで適用できる納税猶予制度です。
文化財の散逸防止と適切な保存活用を促進するため、
令和5年の税制改正で創設された特例です。
《お知らせ》
1.セミナー
(1)秋田大家の会で波乗りニーノさんとコラボセミナー
日時:6月21日(土)13:00~17:35(セミナー後懇親会あり)
場所:秋田拠点センター アルヴェ1F音楽交流室D
(秋田駅徒歩3分)
費用:3,500円~
申し込み:http://x.gd/3zZWz
(2)固定資産税を学ぶオンライン無料セミナー
『大家さん専門税理士が語る!
知らないと損する!不動産オーナーのための固定資産税ガイド』
※渡邊の講演前に、株式会社アーキテクト・ディベロッパー様のPRセミナーがあります。
日時:6月15日(日)10:00~12:00
費用:無料(ビズアナオーナー会員の登録(無料)が必要です。)
申し込み:https://www.o.biz-ana.com/seminar/seminar20250615/
(主催:株式会社CBIT)
2.横浜で無料相談会の開催
Knees bee税理士法人の横浜サテライトオフィスを6月から開設しました。
開設を記念して渡邊による無料税務相談会を開催します。
日時:6月15日(日)、6月29日(日)
場所:神奈川県横浜市西区北幸1-11-5
相鉄KSビル905 横浜駅9出口から徒歩3分
申し込み:https://x.gd/BffZE
3.税務調査アンケートのご協力のお願い
AI賃料査定でおなじみのスマサテさんとの協同企画で
『不動産オーナーの税務調査に関する実態アンケート』を実施しています。
ご協力いただいた方にはアマギフ 500 円を謝礼として受け取れます。
調査結果は、スマサテ for Owners より
不動産オーナー限定レポートとして配布予定です。
【アンケート対象者は、次のいずれかに該当する方です。
◯不動産収入を得てから 2 年以上経過している方
◯現在は収入がないが、過去に税務調査を受けたことがある方
◎アンケートはこちら (回答所要時間:約 2 ~ 3 分)
https://forms.gle/sJKWxcrdPH3cd4Ge8
回答期限:2025 年 6 月 8 日(日) 23:59 まで
