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相続財産調査に役立つ制度と懸念点

渡邊浩滋の賃貸言いたい放題 第225回

相続税の基礎から応用までわかりやすくQ&A方式で解説していきます。

Q父が亡くなりました。生前は財産のことをあまり話したがらず、どこの銀行に口座があるのか、どんな投資をしていたのか、所有不動産がどこにあるのか、家族も把握していません。通帳や権利証を探していますが、全て見つかるか不安です。
相続財産を漏れなく調査する良い方法はありますか?

A
相続手続きにおいて最初に直面する課題が、
被相続人の財産をどのように把握するかという問題です。
かつては通帳や権利証を一つひとつ確認し、
金融機関や市町村に個別に照会をかける必要がありました。
しかし、近年導入された新制度により、この作業は大きく効率化されつつあります。

1.口座管理法による預貯金口座の一括照会
2025年4月に口座管理法が施行されました。
通称「預貯金口座付番制度」によって、
被相続人のマイナンバーを活用することで、
全国の金融機関に散在する預貯金口座を一度に把握する手続きです。

従来、相続人は被相続人が取引していたと思われる金融機関を推測し、
一行ずつ全店照会をかける必要がありました。

この作業は時間と労力を要するだけでなく、
取引金融機関を見落とすリスクも抱えていました。
新制度では、預金保険機構が窓口となり、
マイナンバーで紐付けられた口座情報を一括して照会することが可能となったのです。

手続きは、相続人は最寄りの金融機関窓口で申請書を提出し、
5,060円の手数料を支払うだけです。
後日、被相続人名義の口座がある金融機関の一覧が郵送で届きます。

ただし、マイナンバーと紐付けられていない口座は照会対象になりません。
特に高齢者の場合、制度開始前から保有していた口座や、
マイナンバーの登録を行っていない金融機関の口座は、この照会では発見できません。

また、照会結果として得られるのは金融機関名と支店名、
口座種別程度の情報であり、残高や取引履歴は含まれていません。
そのため、照会後は各金融機関に個別に連絡を取り、
残高証明書の発行を依頼する必要があります。

2.証券保管振替機構(通称:ほふり)への開示請求
株式や投資信託などの有価証券についても、
同様の一括照会制度が整備されています。
証券保管振替機構(通称:ほふり)への開示請求により、
被相続人が保有していた上場株式等の口座開設先を把握することができます。

この制度の利用方法は、所定の開示請求書に必要書類を添えて郵送するというものです。
手数料は6,050円ですが、法定相続情報一覧図を提出すれば4,950円に減額されます。
なお、「該当なし」の場合も手数料は発生します。

請求から2~4週間程度で、
被相続人が証券口座を開設していた証券会社や信託銀行の一覧が届きます。

こちらの制度も、開示される情報は証券会社名のみで、
具体的な保有銘柄や残高は含まれません。

また、過去に口座を解約・廃止した場合でも、
その証券会社が加入者情報の削除を行っていない限り、
開示請求の結果に口座管理機関として記載されますのでご注意ください。

なお、非上場会社の株式や海外の証券口座は照会対象外となります。

3.所有不動産記録証明制度による不動産の全国一括調査
2026年2月2日から「所有不動産記録証明制度」が始まる予定です。

現在は市区町村ごとに名寄帳を請求し、
固定資産税の課税明細書を確認するという作業を繰り返す必要がありますが、
新制度では法務局で全国の不動産を一括して把握できるようになります。

この制度の画期的な点は、
非課税の私道や共有持分の不動産も含めて網羅的に把握できることです。
従来の固定資産税通知では、非課税資産は記載されず、
共有不動産は代表者にしか通知が届かないため、
相続人が見落とすケースが少なくありませんでした。
新制度により、こうした「隠れた不動産」も確実に把握できるようになります。

注意点は、登記名義が被相続人になっていない不動産は検索対象外という点です。
例えば、先代から相続したものの登記名義を変更していなかった不動産や未登記不動産は、
証明書には記載されません。

また、証明書に記載されるのは不動産の所在情報のみで、
評価額や権利関係の詳細は別途調査が必要です。

4.まとめ
相続財産調査が効率化する制度は今後も出てきますが、
限界があることは知っておきましょう。
とくに、被相続人の財産でありながらも、
形式上は親族名義になっている「名義財産」の有無は
これらの制度を利用しても発見できないのです。

名義財産は税務調査で特に重点的にチェックされる項目であり、
申告漏れが発覚した場合は追徴課税に加え、
無申告加算税や過少申告加算税、
悪質な場合は重加算税(35%)が課される可能性があるため注意してください。

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ABOUT ME
渡邊浩滋
大家さん専門税理士事務所、渡邊浩滋総合事務所代表。当サイトを運営する大家さん専門税理士ネットワーク「Knees(ニーズ)」代表。 自らも両親から引き継いだアパートを経営する大家であり、「全国の困っている大家さんを助けたい」という夢を叶えるべく日々奔走している。 全国でのセミナー出演、コラム執筆等多数。
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