●「株式会社の定款の見直しについて」
こんにちは。弁護士の関です。
今月は「株式会社の定款の見直しについて」を書いていきます。
●定款の記載事項
定款に定める内容は、
①絶対的記載事項、
②相対的記載事項、
③任意的記載事項に分かれます。
日本公証人連合会の「定款等記載例」のうち、
「株式会社の定款」の「2 中小規模の会社」の定款例
(以下「本定款例」といいます。)を参考に説明していきます。
適宜、リンク先のPDFをご覧ください。
クリックしてkaisya-teikan02_sm_2021.pdfにアクセス
●①絶対的記載事項
絶対的記載事項は、定款に必ず規定しなければならない事項で、
その規定を欠く定款は無効になるものです。
具体的には、目的(本定款例第2条)、商号(同第1条)、
本店の所在地(同第3条)、
設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
(同第34条の一部)、発起人の氏名又は名称及び住所(同第45条)、
発行可能株式総数(同第5条)の6つの事項です。
定款上の「本店の所在地」は、最小行政区画
(市区町村)まで記載すれば足ります。
本店の具体的な所在場所を移転するときは、
会社の登記変更が必要になりますが、
同一の市区町村内で移転する場合には、
定款変更までは不要です。まれに、定款上の「本店の所在地」として、
具体的な所在場所(例えば、「東京都○○区」ではなく、
「東京都○○区○○町1丁目2番3号」)まで
記載がある定款を見かけますが、
同一の市区町村内で移転する場合でも、
会社の登記変更の前提として、
定款変更が必要になります。
●②相対的記載事項
相対的記載事項は、
定款に必ず規定しなければならないものではありませんが、
定款の定めがなければ効力が生じない事項です。
例えば、本定款例第24条では次のように定められています。
(取締役の任期)
第24条 取締役の任期は、
選任後5年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する
定時株主総会の終結の時までとする。
会社法では原則として取締役の任期は「2年」とされていますが、
定款又は株主総会の決議により短縮することができ、非公開会社では、
定款により任期を「10年」まで伸長することができるとされています
(会社法332条1項、2項)。
本定款例第24条は、定款により2年を
5年まで伸長した例となります。
このように、会社法の規定には、
定款により別段の定めをすることができると
定められているものが多く存在し、
それぞれの会社ごとに選択することができます。
ほかに、本定款例でいえば、第7条(株式の譲渡制限の定め)、
第8条(相続人等に対する売渡請求の定め)、
第16条(招集通知の期間 非公開会社は原則「1週間前まで」→「期間短縮」)、
第18条(株主総会の決議の定足数 原則「議決権の過半数を有する株主が出席」→「定足数排除」)、
第22条(取締役の資格を株主に限る旨の定め)などが、相対的記載事項にあたります。
このうち、第8条(相続人等に対する売渡請求の定め)については、
次のように定められています。
(相続人等に対する売渡請求)
第8条 当会社は、相続、合併その他の一般承継により
当会社の譲渡制限の付された株式を取得した者に対し、
当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる。
この制度は、相続等によって好ましくない者が
新たに株主となることを防ぐべく、
会社が相続人等から相続等の対象である株式を
買い取ることができるとするもので、
定款に定めることによりこの制度を導入することができます
(会社法174条)。
本定款例では特に解説もなく当然のように規定されていますが、
支配株主(例えば、創業者)もその対象になるため、
支配株主が死亡した場合に、
逆に、他の株主から株式を買い取られ、
多数派が入れ替わるリスクもあり、
導入するか否かは慎重に判断すべきものとなります。
日本公証人連合会の「定款等記載例」のうち、
「株式会社の定款」の
「4 大規模な会社」の定款例には次のような定めがあります。
クリックしてkaisya-teikan04_l_2021.pdfにアクセス
(優先株主に対する優先配当金)
第6条 当会社は、優先株式の株主に対し、
毎事業年度の末日において配当すべき剰余金の中より、
1株につき金○円を普通株式に優先して配当する。
2 優先配当金の支払が、前項の優先配当額に達しないときは、
同項の規定にかかわらず、
その不足額を優先株式の株主に対して配当しない。
相対的記載事項として、
内容の異なる2つ以上の種類の株式を
発行することができるようになります。
いわゆる種類株式です。
会社法では、9つの内容の種類株式が
用意されていますが(会社法108条1項)、
前述の定款例は、「剰余金の配当」に関する
いわゆる優先株式について定めたものです。
ほかに、議決権を行使できない無議決権株式やいわゆる黄金株
(拒否権付種類株式)を導入することもできます。
また、本定款例は、比較的規模の小さな
「2 中小規模の会社」の定款例であり、
取締役会や監査役を設置せず、
また株券の発行もない会社を想定していますが
(本定款例第6条(株券の不発行))、
相対的記載事項として、取締役会等を置くことができ
(会社法326条2項)、
株券を発行することもできます(同法214条)。
この機関構成と株券の発行・不発行については、
改めて説明します。
なお、会社法には規定がありませんが、
判例で認められた相対的記載事項として、
株主総会の議決権行使の代理人資格を株主に限る旨を
定款に定めることもできます。
●③任意的記載事項
任意的記載事項は、
株主総会決議、取締役会の制定する規則等に定めても効力が生じるものの、
あえて定款に規定する事項です。
定款に定めると、その後、これを変更するには、
会社法の定款変更の手続が必要になります。
本定款例でいえば、第4条(公告方法)、
第9条(株主名簿記載事項の記載又は記録の請求)、
第12条(株主名簿の基準日)、
第14条(定時株主総会の招集時期)、第17条(株主総会の議長)、
第21条(取締役の員数)、第25条(代表取締役、役付取締役)、
第27条(事業年度)などが任意的記載事項になります。
上記定款例は、一般的に定款に規定されているものですが、
その内容は会社ごとに異なります。
例えば、本定款例第25条には、
次のように定められています。
(代表取締役及び社長)
第25条 当会社に取締役を複数置く場合には、
代表取締役1名を置き、
取締役の互選により定める。当会社に置く取締役が1名の場合には、
当該取締役を代表取締役とする。
2 代表取締役は、社長とし、当会社を代表する。
3 当会社の業務は、専ら取締役社長が執行する。
事業承継の場面で、後継者は代表取締役社長になりますが、
一定期間は、先代経営者も代表取締役会長として残ることがあります。
この場合には、
本定款例では「代表取締役1名」「代表取締役は社長」としていますので、
定款変更が必要となります。