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Q無償提供された宅配ボックスの撤去費用はオーナー負担となってしまうのですか。

現在、賃貸マンションを運営しています。宅配ボックスを設置していますが、無償貸与されたものです。13 年が経過し、サービスが供給できなくなったと言われました。他の宅配ボックスに切り替えることを検討していますが、撤去費用7 万円を請求されました。所有権が私にない宅配ボックスを先方都合でサービスができなくなった状況下、撤去費用は私が負担しなければならないでしょうか?

A

宅配ボックスを設置する場合、業者との間で、設置やその後のアフターサービスに関して何らかの契約を締結していると思います。設置に関しては、購入であれば売買契約、リースであればリース契約、本件のように無償貸与であれば使用貸借契約を締結したことになります。また、設置した後もアフターサービスとして保守等を依頼していれば、その内容の契約を締結しているものと思います。契約と言っても、保証契約のように特別な類型を除いては、書面を交わさなくても、口頭でも成立します。しかし、業者であれば、契約書を交わすか、申込書を提出させて、その複写の裏面に細かい字で契約内容の記載があったりすることが多いのではないかと思われます。
撤去費用の負担を考えるにあたって、まずは、そのような契約書等の書面がないか、お手元の資料をいまいちどご確認ください。手元になければ、業者が保管している分のコピーを取り寄せてみましょう。当初受け取ったパンフレット等も参考になることがあります。仮に、契約書等が一切なければ、民法等の法律に基づき考えるほかありません。本件では、無償貸与(使用貸借契約)ということですが、業者が何の利益も得ずに無償で貸与するということは考えにくいので、保守等の契約とセットになっているのではないかと推測されます。使用貸借の場合、借主が借りた物をいつ返さなければならないかという返還時期について、民法597条に定めがあります。
(借用物の返還の時期)
・第597条 借主は、契約に定めた時期に、借用物の返還をしなければならない。
・2 当事者が返還の時期を定めなかったときは、借主は、契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に、返還をしなければならない。ただし、その使用及び収益を終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求することができる。
・3 当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも返還を請求することができる。
本事例では、契約書等がない前提ですので、第1項の契約に定めた時期がありません。もっとも宅配ボックスというのはマンションで居住者のために使うことが明らかですので、第2項本文により居住者の利用がなくなった時が返還時期になると考えることもできます。
ただし、13年間使用していますので、耐用年数等を考慮して、第2項ただし書により、「使用及び収益をするのに足りる期間を経過したとき」にあたると考える余地もあります。しかし、詳しい事情が分かりませんので、指摘だけにとどめておきます。そして、仮に返還時期が到来していれば、借主は貸主(業者)に宅配ボックスを返還しなければならず、その返還にかかる費用(撤去費用等)は借主が負担するのが原則です。一方で、返還時期が到来していないのであれば、まだ返還する必要がありません。
つぎは、保守等の契約を考えます。保守契約を委任契約と考えれば、民法651条に次のような条項があります。
(委任の解除)
・第651条 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
・2 当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
この第1項により、業者は、いつでも契約を解除することが可能となります。したがって、仮に使用貸借契約が終了しないとしても、この委任契約だけを解除することもできそうです。しかし、使用貸借と保守契約はセットで依頼していますので、この結論は不都合ですよね。結論に妥当性を持たせるためには、使用貸借契約が終了しない限り、保守契約も終了できない合意があったと言いたいところです。この主張ができれば、業者が使用貸借契約も保守契約も終了させたい場合には、業者に債務を履行しない責任が発生し、借主は業者に撤去費用を損害賠償として支払って欲しいと言える可能性があります。以上は、考え方の道筋です。
実際には、設置するときに業者との間でどのような話をしていたのか、どんな書類を受け取っていたのか、どのような機能の設備なのか、どのようなサービスを受けていたのか、他のマンションではどのような契約になっているのか等によって、結論が違ってくると思います。また、契約書がない以上、争いになるリスクがあります。さらに、宅配ボックスは業者の所有物ですので、借主が勝手に処分することはできません。したがって、まずは、以上の考え方を前提に業者と交渉しつつ、業者が納得すればそれが一番よいですが、納得しない場合には、業者の反論を聞き、費用負担について話合いで落としどころを見つけて、最終的に、業者の同意を得てスムーズに入れ替えるのがよいでしょう。
まず、宅配ボックスを設置した当時、先方と契約書を作成していませんでしたか。お手元に契約書が存在する場合は、まず契約書の内容を確認してください。宅配ボックスの撤去費用として7万円を借主が支払う旨の規定がある場合、撤去費用7万円は支払わざるを得ない、と考えます。
次に、契約書が存在しない場合はどうなるのでしょうか。本事例の宅配ボックス設置は無償貸与のようですので、法律上、「使用貸借契約」に当てはまります。使用貸借契約は、貸主と借主の信頼関係があって無償で貸している点が特徴的です。使用貸借の借主は、借用物の「通常の必要費」を負担することが民法第595条で定められています。通常の必要費とは、一定の対象物の維持費用の負担と考えられ、具体的には、不動産を使用貸借した場合の固定資産税の負担が裁判上認められています。本事例の宅配ボックスの場合、撤去費用が宅配ボックスを維持するための費用とは考えにくので、通常の必要費には当たらないと考えます。また、法律上一般的に、使用貸借契約は無償契約だからこそ緊密な特殊関係の間のある者でないと成立しないと言われており、貸主側と借主側の利益バランスが重視されます。本事例の宅配ボックスが無償の使用貸借関係であることを考慮すると、宅配ボックスを設置したことによって7万円相当の利益を得ていないのであれば、7万円も支払う必要はないと考えます。一度先方と話し合いをして頂き、お互いが納得する形で解決していただければと思います。
実務的には相手が口を聞いてくれる状態の間に整理しないと、業者に逃げ切られる可能性があります。駐車場でよくあるケースが、車を勝手に置いていかれて、連絡が取れなくなるなどです。話し合いができるうちに解決した方がよいと言えます。
《結論》
契約書があれば、確認して頂き、契約書なければ、話し合いで解決するのがよいと思います。ある程度妥協して、半額払うという交渉も手だと考えます。