●「遺言について」
こんにちは。弁護士の関です。
今月は「遺言について」を書いていきます。
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●遺言の保管方法
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前回、遺言の方式について説明しました。
今回は、作成した遺言の保管方法について説明します。
まず、自筆証書遺言についてですが、
遺言を作成した時点では、
その原本は作成した遺言者本人が所持しています。
従って、その後遺言の原本をどこで保管するかは遺言者本人が決めることができます。
自分で保管する人もいますが、
だれかに預ける人もいます。
自分で保管する場合は、
自宅の棚の引き出しや金庫内で保管する人もいれば、
銀行の貸金庫に入れておく人もいます。
だれかに預ける場合は、家族に渡したり、
遺言執行者に渡しておくこともあります。
遺言書保管制度を利用して、
法務局に預けることもできます。詳しくは、後述します。
保管方法を考えるにあたってのポイントは、次の3点です。
・紛失しないか
・第三者に破棄されたり、改ざんされたり、隠匿されたりしないか
・死後に相続人や遺言執行者に遺言の存在に気付いてもらえるか
(+その発見者が破棄、改ざん、隠匿をしないか)
次に、秘密証書遺言についてですが、
こちらも、公証役場で作成した時点では、
その原本は作成した遺言者本人が所持するため、
自筆証書遺言と同じように、
自分で保管するか、だれかに預けるかを決めます。
ただし、秘密証書遺言の場合には、
後述する遺言書保管制度を利用することができません。
一方で、公正証書遺言については、
その原本(署名捺印したもの)は
公証役場で保管されます。遺言者本人には、その写しである「正本」と
「謄本」が渡されます。従って、
遺言者は、この正本と謄本をどのように保管するかを決めておきます。
例えば、正本は遺言執行者に渡しておき、
謄本を自分で保管する方もいます。
公正証書遺言の場合には原本が公証役場で保管されるため、
紛失、破棄、改ざん、隠匿のおそれがありません。
ちなみに、公正証書遺言は、遺言者の死亡後50年、
証書作成後140年または遺言者の
生後170年間保存する取扱いとしているそうです。
※ 日本公証人連合会Webサイト「2 遺言」
→「7 遺言の検索、謄本の請求および保存期間」
→「Q4 公正証書遺言は、どのくらいの期間、保存されるのですか?」
https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow02
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●自筆証書の遺言書保管制度
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3つの方式のうち、自筆証書遺言については、
法務局で預かってもらうことができます。
これを、自筆証書の遺言書保管制度といいます。
この制度を利用するかどうかは、完全な任意となっておりますので、
自筆証書遺言を作成した場合、
必ず利用しなければならないものではありません。
この制度については、
法務省のWebサイトに詳しい説明がありますので、
ご興味ある方はこちらをご覧ください。
※ 法務省Webサイト「自筆証書遺言書保管制度」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html
<手続の流れ>は、次のとおりです。
詳しい手続はこちらで調べることができます。
※ 法務省Webサイト「02 遺言者の手続」
https://www.moj.go.jp/MINJI/02.html
・自筆証書遺言の作成
前回説明した民法の方式のほかに、
保管制度を利用する際の特別なルールにも従う必要があります。
例えば、A4サイズ、余白(最低限、上部5ミリメートル、
下部10ミリメートル、左20ミリメートル、右5ミリメートル)の確保、
片面のみに記載、ページ番号の記載などがあります。
また、提出した遺言書については画像情報が作成されますので、
封筒に入れて封印をしたまま利用することができません。
※ 法務省Webサイト「03 遺言書の様式等についての注意事項」
https://www.moj.go.jp/MINJI/03.html
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・法務局(遺言書保管所といい、一部の法務局に限られます)で保管申請
遺言書保管所として指定されている法務局はこちらで調べることができます。
※ 法務省Webサイト「07 管轄/遺言書保管所一覧」
https://www.moj.go.jp/MINJI/07.html
この中で、遺言者の住所地、
本籍地、所有する不動産の所在地のいずれかを管轄している
遺言書保管所を選択することができます。
保管申請には、必ず、遺言者本人が自ら出頭する必要があります。
病院で寝たきりの方は利用できず、
ここが、公証人が出張してくれる公正証書遺言とは違う点です。
手数料は、遺言書1通につき、3,900円かかります。
保管申請の際に、保管申請書のほか、遺言書の原本を提出します。
他にも必要な書類がありますので、法務省のサイトをご覧ください。
<遺言書保管制度のメリット>は、次のとおりです。
まず、遺言書の原本が法務局で保管されるため、
自筆証書遺言のデメリットである紛失、
破棄、改ざん、隠匿のおそれを回避することができます。
次に、遺言書を提出した際に、
民法の方式を満たしているかチェックされますので、
形式不備による無効のおそれも回避することができます。
もっとも、内容のチェックまではされませんので、
内容不備のおそれを回避するためには、
やはり専門家へも相談することをお勧めします。
また、公正証書遺言と同じく、
遺言者の死後に検認申立をする必要がなくなります。
ただし、遺言執行をするためには、
遺言書の代わりとなる遺言書情報証明書
(遺言書の画像情報が表示されるもの)を取得する必要があります。
遺言書情報証明書の見本はこちらをご覧ください。
※ 法務省Webサイト「05 証明書について」
https://www.moj.go.jp/MINJI/05.html
もう一つ、保管制度を利用した場合だけ得ることができる
メリットがあります。
それは、遺言者が死亡した後、
その死亡の事実と遺言書の存在を、
遺言者が知らせたいと思う人に、
自動的に知らせることができることです。
例えば、家族に知られずに弁護士Aに相談して
自筆証書遺言を作成し、遺言執行者として弁護士Aを指定し、
その遺言を弁護士Aに保管してもらったとします。
その後、数年経って遺言者が亡くなったとしても、
その家族から弁護士Aに死亡の事実が伝わらなければ、
結局、その遺言が執行されることがないままとなってしまいます。
この保管制度では、指定者通知という制度があり、
遺言者が希望すれば、あらかじめ指定した方
(最大3名まで指定可能)に、死後、遺言書保管所から
遺言書が保管されていることが通知されます。
先ほどの例で、遺言書保管制度を利用し、
弁護士Aを通知の対象者として指定しておけば、
死後に、弁護士Aに上記通知が届き、
死亡の事実が弁護士Aに伝わります。
なお、その後、弁護士Aが、遺言執行者として、
遺言書を閲覧したり遺言書情報証明書を取得すると、
推定相続人や受遺者などにも遺言書が
保管されていることが通知されます
(こちらは、関係遺言書保管通知といいます)。
なお、遺言書保管制度を利用すれば、
この指定通知を利用するか否かを問わず、
自筆証書遺言であっても、
公正証書遺言と同じように、遺言者の死後に、
相続人が遺言書保管所で遺言書の有無を確認することができます。
余談ですが、そういう意味では、相続人は、
被相続人が亡くなった際には、
公証役場だけではなく、遺言書保管所(法務局)にも
遺言書の有無を確認することが必須となったといえます。
