~知ってトクする大家さんの相続問題~
今月号は、保険×不動産マイスター
津曲(つまがり) 巖(いわお)より、お届けさせていただきます。
前回は、「相続対策」のキモは「順序」であり、「税法」のみならず「民法」を
考慮した対策をしないとせっかくの対策が「争いのタネ」になる可能性が
大であることをお話いたしました。
いかがだったでしょうか。
今週は、公正証書で遺言したにもかかわらず「争い」になってしまった例を
見ていきましょう。
●「公正証書で遺言」すれば大丈夫だったはずなのに・・・
今年2月に亡くなられたAさんの例です。
都内で2代目大家さんをされていたAさんは、20年前に亡き父の「相続」で
兄弟間で遺産分割につき裁判まで争い兄弟の縁を切る!
ところまで行ってしまった経験から
避けて通れない「相続」について、妻のB子さんと相談して、
3人の子供たちに相続する財産について平等になるようにと熟慮され司法書士さん、
税理士さんのお墨付きをもらって安心して「公正証書遺言」をしたためました。
(2010年2月、リーマンショック後で
保有する株も不動産も大きく価値が下がっている状況でした。)
一昨年奥様のB子さんに先立たれ失意の中、持病が悪化。
一年以上の闘病生活もむなしく今年2月お亡くなりになられました。
故B子さんも公正証書遺言をAさんと同時に作成し、
3人のお子さん方に平等に分けることとしており当時は兄弟仲良く分割、相続されました。
ご存命中、3人のお子さん方にも公正証書遺言のことは話してあったので
Aさんも安心していらしたと想像できます。
しかし、残された遺言を紐解き、税理士さんが財産を精査してみると・・・・
1.長男さん(Aさんと同居、Aさんの大家さん業の手伝い)・・・
自宅と賃貸マンションA。生命保険金。
2.次男さん(近県在住、サラリーマン)・・・賃貸マンションB(Aと同じ敷地、同規模)
アパート1棟、生命保険金。
3.長女さん(関西在住、配偶者は金融機関にお勤めで転勤族)・・・
かなりの有価証券等、現預金、生命保険金。
でした。
2010年、公正証書遺言作成の段階では、生命保険金を除けば、遺産分割の割合は、
ほぼ長男さん:次男さん:長女さん=3:3:3だったようですが、
12年後の今年の2月現在では、各種特例を利用する前の評価で、
不動産の価値は急騰する一方、有価証券等は銘柄により乱高下がありほぼ同水準、
現預金は微増で大きく減少はしていませんでした。
Aさんが必至で減らさないようにしていたとのことでした。
遺言通りですと、分割割合は、9:7:3となり、大きな開きがありました。
当然のごとく、長女さんより、「父の意思は3人に平等であった。
せめてもう少し分割について考慮してほしい。」との申し出がありました。
更に、問題がありました。
長男さんにはそれなりの貯えがあり相続税の支払いは何とかなりそうでしたが、
次男さんは受けっとった生命保険金では到底不足し、
いずれかの物件を担保に相続税の不足分を借金をして支払わなくてはならない状況でした。
次男さんはまだ、ご自身の住宅ローン、教育ローンの返済もしており、
とても追加の借金に対して、ご家族からも反対の声があがっていました。
数カ月の話し合いの結果、賃貸マンションA、Bとアパート1棟はすべて売却。
長男さんの自宅も時価評価され、それぞれ3分の1ずつになるようになったのですが、
大家さん業は「廃業」。自宅以外の不動産も失うこととなってしまいました。
●どうすれば防ぐことができたのか
この事例では、すごくシンプルに2つのことに気を付ければ結果は違ったと考えられます。
1.公正証書に記載の「財産」について、特に不動産、
有価証券等は「時価」となることを忘れず定期的に見直すこと。
2.作成当初の想定と財産や相続割合など変化があったら
早急に新たな公正証書遺言を作成すること。
他にもありますが、大きく上記の2点をまもれば
資産もまもり、円満な想い通りの相続が可能となります。
「定期的見直し」はご自身の「健康診断」と心得て取り組んで参りましょう。